バッハ:組曲 ヘ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:組曲 ヘ短調 | Suite f-Moll BWV 823 | 作曲年: 1708-14年 出版年: 1843年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
この作品はバッハの信奉者であった同時代のオルガニスト、J. P. ケルナーの音楽帖のみを唯一の資料とするため、真作であるか疑われている。しかし、現在のところ他の作曲者の作品であるとは証明されていない。また、音楽の内容から見てバッハの真作である可能性が充分に考えられる。バッハの作としてはそれほど初期というわけではなく、ヴァイマル時代の中頃で1714年(楽師長就任の年)以前とするのが定説となっている。
しかしいずれにせよ、この3つの楽章が組曲の断片であることには違いない。前奏曲-サラバンド-ジーグという組み合わせは当時の、またバッハのどんな組曲定型にも当てはまらないからである。
前奏曲は最初の8小節を主題(リフレイン)とするロンドである。3つの挿入部(クプレ)は同じバス進行(F-E-D-C)を持っている。これらは毎回細かな音型が徐々に増えてテンポアップし、3つめは遂に32分音符のみの無窮動風のものになる。
サラバンドは上声と下声の対話によって進む。それは模倣や動機の労作ではなく、右手の上行形の問いかけに対して左がいつも同じ調子で下行形に呟くような、きわめて表出的な対話である。なお、この曲のようにダ・カーポ形式のサラバンドはバッハには他に例がない。
ジーグは、舞曲リズムと旋律を一手に担う右手に、左が和声的土台を単音で添えるというきわめて簡素なもの。この組曲がバッハの作でないとする根拠は、対位法とまったく無縁な、あまりに質素なジーグにある。実際、この楽章に限ってはバッハらしい響きであると自信を持って断言することはできない。
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