5『異次元の影』
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「ラヴクラフトとダーレスの合作作品」の記事における「5『異次元の影』」の解説
『異次元の影』(いじげんのかげ、原題:英: The Shadow out of Space)。1957年にアーカムハウスの単行本『生きながらえるものその他』に収録された短編の一つ。邦訳はクト4(東谷真知子訳)。 「コズミックホラー」であるラヴクラフトの『時間からの影』を、ダーレスが「クトゥルフ神話」としてリメイクしたもの。精神科医を語り手として、患者を診察しながら奇怪な事件に巻き込まれるという形式をとる。また作中時が『時間からの影』と重複する。 イースの大いなる種族が、5000万年前に2万年後に逃げた理由が、変わっている。ラヴクラフトの『時間からの影』では、追い払った敵対種族「空飛ぶポリプ」の逆襲を予見したためである。これがフランシス・レイニーの設定(≒恣意的解釈による変更)では、「旧神と旧支配者の戦いに大いなる種族も加わり、敗れて逃げた」とされた。これをダーレスは、作品の中身に組み込んだ。 大いなる種族が介入する時間史において、地球に核戦争が起こることも設定された。ラヴクラフト時代ではあり得ない設定であるが、第二次世界大戦後に核を組み込んだクトゥルフ神話作品は複数存在しその一つである。この生物については、後述の『ポーの末裔』も参照。 東雅夫は「ラヴクラフトの創作メモの補作という体裁をとっているが、実際には『時間からの影』をダーレス流に書き直した作品である。ダーレスがわざわざ本編をものにした理由は、両作を読み比べてみれば明らかだろう。“旧神”対“旧支配者”の図式をさりげなく導入することで、ダーレスは<大いなる種族>をもダーレス流神話の世界に引きずりこんだのだ」と解説している。朱鷺田祐介は『時間からの影』はいわゆるクトゥルフ物語ではなく大きく雰囲気が異なるSF作品だと前置きした上で、「重要なポイントはいわゆるクトゥルフ神話の重要事件を全て取り込もうとしていること」「明らかに、当時のダーレスが推し進めていたクトゥルフ神話の構造化に<大いなる種族>さえ取り込もうとしたのである」と解説している。続けて「この結果、ダーレスの描く<大いなる種族>は、ラヴクラフトの夢見たユートピアの住人ではなく、時間を越えて、歴史を監視し、自分の種族の安全だけを願う日和見な陰謀家の種族になってしまった。この方が、当時、はやっていた陰謀史観には適していたが、作品としての質が一回り小さくなったことも否めない」と述べている。
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