3つの幻想領域
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/29 06:20 UTC 版)
吉本隆明は、著書『共同幻想論』(1968年)で人間関係は、3種類に分類されると提唱した。 自己幻想個人と個人の関係。芸術がこれに当たる。他者に影響を及ぼすことはほとんどなく、無制約に自由である。 対幻想個人と他者とのプライベートな関係。家族・友人・恋人がこれに当たる。 共同幻想人間同士の公的な関係。国家・法律・企業・経済・株式・組合 などがこれに当たる。また、宗教は、個人の内面に収まる限りは自己幻想に当たるが、教団を結成し、布教を開始すれば、共同幻想に当たる。 この分類は効果的であり、世界を正しく見るうえでこの3つの幻想領域を混乱、混同させようとしないことが大事であると吉本は主張する。これらはそれぞれ独自の法則で動くものである。例えば、吉本は心理学者のジークムント・フロイトはリビドーという対幻想性を、社会領域まで無条件に拡大して採用しようとしたところに誤りがあるとみて、批判している。 また、1人の人間もこれらの領域でそれぞれ違う顔を持っている。例えば、内集団にいる顔と、家庭にいる顔、そして1人でいるときの顔や行動は、それぞれ違う場合が主である。外弁慶、内弁慶という言葉があるように、冷酷な独裁者や軍人が家庭内では優しいよき父親である場合があったり、逆に職場内では物静かな人物が、家庭内では暴力的な暴君として振舞うなどということは、じゅうぶんありえることなのである。 吉本隆明は、共同幻想の世界では、個人が幽霊としてしか存在できなくなると主張する。 例えば、「今は企業の危機だから、粉骨砕身働け」との企業幹部の檄は、労働力を売りに来ているに過ぎない個人としての労働者の立場と矛盾する。 岸田秀は吉本から共同幻想の考え方を引き継いで『ものぐさ精神分析』(1977年)を著し、唯幻論を提唱した。岸田の唯幻論において幻想は私的幻想と共同幻想に大別され、対幻想の考えは共同幻想に含まれることになる。
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