面をかける作法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/10/14 20:28 UTC 版)
能楽師は、面を極めて丁重に取り扱う。 能面を能の道具と見る人がある。[中略]だが、私ども能楽師は、能面を、道具とは思っていない。能面を顔につける時にも、両手でいただくのが作法であるし、能面の入っている面箱は、直接、畳におくようなことはしないで、机や棚に載せるなど、その取り扱いには、細心の注意を払っている。他の能道具や能装束とは、大変な違いなのである。 — 金春信高(金春流第79世宗家)、「能面と生きる」能面の本質 能楽師は、楽屋で装束を着けると、揚幕(あげまく)の奥にある鏡の間(ま)という空間で面をかける。シテのみが床几について面をかけることが許され、ツレは、鏡の前にひざまずいて面をかける。面の選択も、ツレは格を抑えた控えめなものを選ぶ。能面の両耳部分にある紐穴には飾り紐が通され、その紐の色も面によって決まっている。能楽師は紐穴部分のみを指で触れて面に向き合い、両手で押しいただき、後見ほか数人が角度や位置を厳しく点検しながら、紐を均等に張って面をかける。流儀により、面と顔の間には、柔らかい紙に巻かれた(あるいは布袋に入れられた)詰め物の綿が当てられ、しっかり固定される。 シテは楽屋で装束をつけた後、鏡の間には、開演三十分前には入る。そして、大きな鏡に向かって、葛桶(かずらおけ)(能楽用の腰かけ)に腰かける。鏡に密着して、白木の八足台(はっそくだい)があり、能面がその上に飾られてある。頃を図って、シテはその能面を後見(こうけん)から受け取り、両手でうやうやしくいただいた後、能面の両眼をじっと見る。これを開眼(かいげん)のこころという。祈るような気持である。そして、シテが能面を顔につけると、後見が後ろに廻って面の紐を結ぶ。開演の五分前には、ワキ、狂言、囃子方の諸役も鏡の間に入って待機する。 — 金春信高、「能面と生きる」鏡の間の秘密 なお、以上は通常の能の曲の場合であり、『翁』の場合は、役者が舞台上で面をかけるという特有の作法がある。すなわち、面箱(めんばこ)持ちが翁面を舞台に運び、千歳の舞の後、翁大夫は舞台上で白式尉の面をかけて舞う。その後、三番叟(三番三)が、最初は直面で舞い(揉之段)、続いて黒式尉の面をかけて舞う(鈴之段)。
※この「面をかける作法」の解説は、「能面」の解説の一部です。
「面をかける作法」を含む「能面」の記事については、「能面」の概要を参照ください。
- 面をかける作法のページへのリンク