量子力学との関わり
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 21:21 UTC 版)
「シンプレクティック幾何学」の記事における「量子力学との関わり」の解説
20世紀初頭になると、シンプレクティック幾何学は更なる転機を迎える。量子力学の誕生である。ハイゼンベルクやシュレディンガーらによって、量子力学は始まるが、そこにおいてもシンプレクティック幾何は重要であった。ハイゼンベルクの行列力学はポアソン括弧から出発し、シュレディンガーの波動力学はハミルトン・ヤコビ方程式から出発するからである。その後、量子化の方法はいくつも提案されている。いくつか挙げるとすれば、 正準量子化 ファインマンの経路積分法による量子化 ネルソンによる確率力学 である。 n {\displaystyle n} 次元ユークリッド空間 R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} においては、十分に正当性の高い量子化の方法が得られている。それは、上に挙げた正準量子化である。 R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} 上の絶対二乗可積分な関数全体のなすヒルベルト空間 L 2 ( R n ) = { f : R n → C | ∫ R n | f ( x ) | 2 d n x < ∞ } {\displaystyle L^{2}(\mathbb {R} ^{n})=\left\{f:\mathbb {R} ^{n}\to \mathbb {C} \,\left|\,\int _{\mathbb {R} ^{n}}|f(x)|^{2}d^{n}x<\infty \right.\right\}} を考え、位置 x j {\displaystyle \,x_{j}\,} と運動量 p j ( j = 1 , ⋯ , n ) {\displaystyle \,p_{j}\ (j=1,\cdots ,n)\,} に対応する物理量をそのヒルベルト空間 L 2 ( R n ) {\displaystyle L^{2}(\mathbb {R} ^{n})} 上の自己共役作用素 ( x ^ j f ) ( x ) = x j f ( x ) , ( p ^ j f ) ( x ) = − i ℏ ∂ f ∂ x j ( x ) ( j = 1 , ⋯ n ) {\displaystyle {\begin{aligned}({\hat {x}}_{j}f)(x)&=x_{j}f(x),\\({\hat {p}}_{j}f)(x)&=-i\hbar {\frac {\partial f}{\partial x_{j}}}(x)\end{aligned}}\quad (j=1,\cdots n)} と置き換える。ここで、 ℏ {\displaystyle \hbar } はプランク定数である。これらの作用素に対して、正準交換関係(ハイゼンベルクの交換関係、ボルン・ハイゼンベルク・ヨルダンの交換関係ともいう) [ x ^ j , x ^ k ] = [ p ^ j , p ^ k ] = 0 , [ x ^ j , p ^ k ] = i ℏ δ j k {\displaystyle [{\hat {x}}_{j},{\hat {x}}_{k}]=[{\hat {p}}_{j},{\hat {p}}_{k}]=0,\,\,[{\hat {x}}_{j},{\hat {p}}_{k}]=i\hbar \delta _{jk}} が成り立つ。一般にヒルベルト空間 H {\displaystyle {\mathcal {H}}} とその上の正準交換関係を満たす自己共役作用素の組 ( H , x ^ 1 , ⋯ , x ^ n , p ^ 1 , ⋯ , p ^ n ) {\displaystyle ({\mathcal {H}},{\hat {x}}_{1},\cdots ,{\hat {x}}_{n},{\hat {p}}_{1},\cdots ,{\hat {p}}_{n})} を自由度nの正準交換関係表現という。正準量子化とは、ヒルベルト空間 L 2 ( R n ) {\displaystyle L^{2}(\mathbb {R} ^{n})} 上の正準交換関係表現を定義することに他ならない。このような正準量子化の定義をはっきりと打ち出したのは、フォン・ノイマンである。フォン・ノイマンはさらに、ヴァイルの関係式を満たす正準交換関係表現がユニタリー同値なものを除いて一意に定まることを示した。これはハイゼンベルクによる行列力学とシュレディンガーによる波動力学の同値性を説明する。 しかし、正準量子化はユークリッド空間ではうまくいくが、一般の多様体上では簡単にそれを行うことはできない。なぜなら、多様体において座標は局所的なものであり、それを大域的に用いることはできないからである。また、正準量子化の方法をシンプレクティック多様体の上に一般化することも困難である。なぜなら、ユークリッド空間上での正準量子化は T ∗ R n ≅ R n × R n {\displaystyle T^{*}\mathbb {R} ^{n}\cong \mathbb {R} ^{n}\times \mathbb {R} ^{n}} 上の量子化であると考えられ、位置と運動量の区別が自然と付く。しかし、一般のシンプレクティック多様体の場合(例えばコンパクト多様体を考えよ) 、位置と運動量の区別は付かない。そのため、運動量を微分演算子で置き換えるという、正準量子化の方法が幾何学的にどのような意味を持つかはこの時点でははっきりしないのである。この疑問に対して、ディラックは幾何学的量子化の問題を提起した。 ( M , ω ) {\displaystyle (M,\omega )} をシンプレクティック多様体とし、 { ∙ , ∙ } {\displaystyle \{\bullet ,\bullet \}} をシンプレクティック形式から定まるポアソン構造とする。ディラックの提起した幾何学的量子化の問題とは次のように述べられる。 幾何学的量子化: シンプレクティック多様体 ( M , ω ) {\displaystyle (M,\omega )} からあるヒルベルト空間 H {\displaystyle {\mathfrak {H}}} を作り、 M {\displaystyle M} 上の滑らかな関数のなす関数環 C ∞ ( M ) {\displaystyle C^{\infty }(M)} から H {\displaystyle {\mathfrak {H}}} 上の線型作用素への対応 Q {\displaystyle Q} で次の性質を満たすものを構成せよ: [ Q ( f ) , Q ( g ) ] = i ℏ Q ( { f , g } ) , f , g ∈ C ∞ ( M ) , {\displaystyle [Q(f),Q(g)]=i\hbar Q(\{f,g\}),\,\,\,\,f,g\in C^{\infty }(M),} ここで、 [ X , Y ] = X Y − Y X {\displaystyle [X,Y]=XY-YX} である。 幾何学的量子化が T ∗ R n {\displaystyle T^{*}\mathbb {R} ^{n}} の場合にうまくいくことは既に見た。問題は一般のシンプレクティック多様体に対して、上のような量子化ができるかである。
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