運動エネルギー弾
運動エネルギー弾(うんどうエネルギーだん、英語:kinetic energy penetrator、KEP)とは、炸薬ではなく質量、弾頭硬度、速度といったミサイル・砲弾自身が持つ運動エネルギーによって対象を破壊する機構を持つ弾丸兵器のこと。砲弾とミサイルの違いはあるが、運動エネルギーミサイルも本項で説明する。
運動エネルギーによって対象を破壊する機構を持つ兵器の総称を運動エネルギー利用兵器(英語ではKEW、kinetic energy weapon)という[1]。指向性エネルギー兵器(DEW)に対して、従来型兵器をいう[2]。
概要
基本的には成形炸薬弾(HEAT)や粘着榴弾(HESH)と言った爆発・炸裂弾(化学エネルギー弾)に対し、LOSATやCKEMといった運動エネルギーミサイルや、APFSDSのような運動エネルギー徹甲弾、また近年開発されるタングステン弾、劣化ウラン弾などを指す際に用いられる。運動エネルギーを利用した弾丸という広義では、通常の徹甲弾や銃弾などもこれに分類できる。
中空装甲によりHEATが、 飛散防止内張によりHESHが対応された結果、APFSDSやCKEMのように、弾体自体の速度によってユゴニオ弾性限界を超え、中空装甲と飛散防止内張を突破する弾薬が生み出された。
ただし、ユゴニオ弾性限界を超えることによって装甲を突破する弾薬への対策として設計されたセラミック複合装甲が十分な厚みを持っていた場合は通用しない。
原理
対戦車兵器としての運動エネルギー弾頭には数キログラムから数十キログラムのタングステンや劣化ウランが硬度・比重の都合から最も好まれる。
代表的な運動エネルギー砲弾APFSDSの場合、貫徹力を上げるため従来の徹甲弾とは大きく異なるダーツ矢のような形状をしており、砲弾自身の質量は数kg程度しかない。しかし、1,500m/s前後という極めて速い飛翔速度により運動エネルギーの総量を高めているため3MJ前後に達し、エネルギーが1点に集中することにより殆ど全ての戦車装甲をいとも簡単に貫徹することができる。(詳細はAPFSDSを参照)
また、代表的な対戦車用途の運動エネルギーミサイルとしてLOSATやCKEMといった地対地ミサイルがあり、これは誘導ミサイルとしての特性からAPFSDSの最大射程2km前後を大幅に上回る射程を持ち(4km~10km)、一方的に撃破することが可能であるが、デメリットとして1発ごとのコストが跳ね上がることは避けられない。
種類・分類
- 運動エネルギーミサイル(Kinetic Energy Missile)
-
- LOSAT
- CKEM
- DF-21 (東風21号)衛星攻撃実験時
- RIM-161スタンダード・ミサイル3(SM-3)
- CSM
- 運動エネルギー弾(Kinetic Energy Penetrator)
- 広義の運動エネルギー兵器
脚注
- ^ デジタル大辞泉KEW。運動エネルギーを利用した兵器・武器という意味では弓矢や投石機なども含まれる。
- ^ デジタル大辞泉DEW
関連項目
運動エネルギー兵器
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/07/06 02:46 UTC 版)
Kinetic Energy Weapon(KEW)。従来の火薬から高性能爆薬、あるいはレールガンを含む各種電磁投射砲(コイルガンやリニアモーターガン)などが想定された。 右画像は7gの合成樹脂(Lexan)製弾丸の加速に圧搾ガスを用いたものであるが、最大初速で約7km/s(秒速7km)にも達し、アルミニウムのブロックに衝突して運動エネルギーの一部は熱に変換され、このような衝突痕となった。 空気中では余りに軽い弾丸は空気抵抗(抗力)にもより急速に減速してしまう事から、火薬を使う銃器でも一定の重さを持つ弾丸か、あるいは空気抵抗の少ない形状をしているのが一般的であるが、空気のない宇宙空間では問題なく発射から衝突までの運動エネルギーは保持されるため、高速で飛行する核ミサイルを迎撃しやすいよう、専ら発射速度だけが重視された。 このほかにも人工衛星から大量の微細なスペースデブリを放出させ、散弾銃のように広範囲に弾丸を発射、対象となる人工衛星や核ミサイルとの交差軌道を取らせる事で破壊するアイデアもあった。
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「運動エネルギー兵器」の例文・使い方・用例・文例
- 運動エネルギー兵器という核兵器
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