軍事的・経済的な弱体さ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/07/07 05:24 UTC 版)
アメリカが軍事的に最強なのは疑いがないが、全世界を相手にするにはむしろ貧弱である。海軍、空軍の優位は揺らぎ無いが、陸軍は無能であり、すでに第二次世界大戦のヨーロッパ戦線において弱さが露呈していた。朝鮮戦争では引き分け、ベトナム戦争では敗北している。アメリカ軍の伝統は物量と軍事技術で圧倒するインディアン戦争であり、湾岸戦争はこれを再現した。しかしローマ帝国のように帝国的空間を作るのは陸軍による占領であって、アメリカ軍は帝国を築くには弱すぎるのである。 経済的にはアメリカの弱体は一層明らかである。2001年の貿易収支は、主要な国家全てに対して赤字を出している。その赤字額は、中国に 830 億ドル、日本に 680 億ドル、EU に 600 億ドル(うちドイツに 290 億ドル、イタリアに 130 億ドル、フランスに 100 億ドル)、メキシコに 300 億ドル、韓国に 130 億ドル、イスラエルに 45 億ドル、ロシアに 35 億ドル、ウクライナに 5 億ドルである。しかもこの赤字は石油などの原料ではなく、工業製品の輸入によるものなのである。アメリカの国内総生産は巨大だが、これは価値が疑わしいサービス産業を含み、トッドは貿易収支のみを信頼できる指標と見なす。 ローマ帝国を支えていたのは属領からの貢納物であったが、アメリカが帝国であるとすれば、その属領は日本と西欧である。1998年の在外アメリカ軍は 259871 人であり、そのうち 60053 人がドイツに、41257 人が日本に駐留している。しかしローマ帝国と異なり、アメリカの軍事力は属領から貢納物を徴収できるほど強くはない。アメリカを支えているのは日欧からの自発的な投資である。しかしトッドは、エンロン破綻に見られるようにアメリカにおける資産価値を信用せず、いずれは株価とドルの暴落により崩壊し、日欧の投資家は身ぐるみを剥がされるだろうと予想する。 アメリカにとって中東は直接的に重要な地域ではない。アメリカは決して中東の石油に依存していない。アメリカが消費する石油の 70% は自国を含む西半球から来る。また、2000年のアメリカの貿易赤字 4500 億ドルのうち、石油による赤字は 800 億ドルであり、無視はできないが主要部分ではない。中東の石油に依存しているのはアメリカではなく日欧である。アメリカは石油に限らずどんな製品を封鎖されても破綻する。従ってトッドは、アメリカが中東の石油に固執するのは自国経済のためではなく、日欧に対する影響力を確保するためであり、それは逆に日欧の統制権を失いつつあることへの恐怖を示しているとする。
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