貿易促進権限の性格
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/09 22:48 UTC 版)
貿易促進権限については、アメリカ合衆国憲法第1条第8節第3号では、連邦議会の立法権限として諸外国との通商を規制する権限があるため、通常の場合、対外交渉を行なうのは大統領であるにもかかわらず、この憲法規定により、米国では、議会が特に大統領に委ねない限り、米国の通商規定に影響を及ぼす交渉を大統領・政府が行うことができない。換言すれば、「大統領は議会が権限を付与することによってはじめて通商交渉を行うことができ、1934年まで米政府は通商交渉・協定締結などの権限を持っていなかった。」とする論証が日本では広く行われていた。しかし、アメリカ合衆国憲法第1条第8節第3号は、連邦と州との関係において対外通商権限が連邦に属することを規定するものであって、議会と大統領との権限の権限分掌の根拠を示したものではない。従って、通商条項は、議会から大統領に対する通商交渉権限の委譲の根拠となるものではないと理解するのが妥当であって、アメリカ合衆国における政治の状況(大統領と議会を支配する政党が一致しないことが多く、また党の統制に反した投票により必ずしも議会で多数であっても法案が成立しなかったり、修正される)に合わせた通商合意の実施のためのものである。 実際、後述するとおり貿易促進権限が失効している際において交渉され合意された米ヨルダン自由貿易協定について、議会が実施法案を可決することにより承認している。この協定は、通商問題というより中東情勢をめぐる政治的な側面が強く超党派の議員からクリントン大統領へ交渉開始を要請する書簡を送るなど議会の事前の支持があったとはいえ、この協定の承認は、法的には貿易促進権限なしに貿易協定を締結し事後に議会の承認を得ることは可能であり、結局超党派の支持が期待できない場合に貿易促進権限なしでは議会の承認を得ることが困難であるという政治的な問題であるということを示すものである。もっとも法的には通商協定の締結(及びそれに先立つ交渉)にあたり貿易促進権限は必須ではないとしても、ガット〜WTOのラウンドや主要国とのEPAの締結において貿易促進権限が事前にないと著しく困難であるということは代わりはない。 なお、貿易促進権限がないと通商交渉自体を行えない説を発表していたジェトロも、最近の記事では「円滑なFTA交渉や批准には、TPAが必須とされる。」とし、更に、米ヨルダンFTAには適用されなかった(適用無しでも成立した)と記載し、かつての記載を修正している。
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