貴族院での審議と文民条項
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/06 07:35 UTC 版)
「日本国憲法第9条」の記事における「貴族院での審議と文民条項」の解説
貴族院では本条については修正されずこの案が最終的なものとなったが、本条の芦田修正との関係で貴族院での審議において憲法66条2項に文民条項が挿入されることとなった。 日本国憲法第六十六条第二項 内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。 当初、このような条項を挿入することについては、軍隊のない日本においては無用であるとの議論もあった。金森国務大臣は「civilian」を「過去において職業軍人の経歴を有しない者」を意味するとの理解のもとに交渉にあたっていたが、新しい訳語をあてるべきと考えられたため、川村竹治委員の提案した「文民」の訳語をあてることとなった。そして、文民条項(日本国憲法第66条第2項)については、1946年(昭和21年)9月に普通選挙制(日本国憲法第15条第3項)とともに貴族院での審議を通して挿入されることとなった。 「文民」の意味については、軍人ではない者を意味するとする説 や職業軍人の経歴を持たない者を意味する説 などが唱えられている。これらの説に対しては、憲法9条により一切の軍が存在しないのであれば「軍人」というものはありえないので憲法66条第2項の文民条項は説明困難となり、仮に「文民」を職業軍人としての経歴を持たない者を指すとするならば憲法66条第2項の文民条項は経過規定として補則の章に置かれるべき規定だったということになると齟齬を指摘する見解もある。この憲法66条第2項の文民条項の存在については、限定放棄説の立場からその論拠として示されることがあり、百里基地訴訟第一審では憲法9条第2項前段の解釈において「「前項の目的」とは第一項全体の趣旨を受けて侵略戦争と侵略的な武力による威嚇ないしその行使に供しうる一切の戦力の保持を禁止したものと解するのが相当であって、みぎ第一項の「国際平和を誠実に希求」するとの趣旨のみを受けて戦力不保持の動機を示したものと解することは困難である。このような見解のもとにおいてこそ、憲法第六六条第二項の、いわゆる文民条項の合理的存在理由をみいだすことができるのである」と判示している。これに対し全面放棄説の立場からは、この規定の存在意義について、制定時の貴族院の審議では9条との関係では無用のものと考えられ、これを意味の有るものとするためにあえて「文民」の語について「過去に職業軍人であった者」と公定解釈されたものであるという経緯が指摘されている。 なお、文民条項については、その後の実力部隊(自衛隊)の創設によって新たな要素が導入されるに至り、通説では現役自衛官は「文民」ではないとされている(ただし、自衛官であった者については学説により見解が分かれている)。 また、2012年時点で、日本政府は、自衛隊を合憲とする根拠について「『戦力に至らない必要最小限の実力』の保持は合憲」とする解釈をおこなっており、芦田修正は政府の合憲根拠とは無関係であり、芦田修正が無くとも合憲であるとしている。
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