誤解の根源
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/06 10:23 UTC 版)
「ブラウン運動にまつわる誤解」の記事における「誤解の根源」の解説
厳密に言えば、花粉がブラウン運動を起こしていないとは言い切れない。ただし、その動きはごくわずかであり、また水の分子はあらゆる方向から突き当たっているため花粉の動きは均質化されてさらに視認しづらくなり、ロバートが観察に用いたアントニ・ファン・レーウェンフックの顕微鏡では確認できたか疑わしい。むしろ、ロバートの実験内容を検証できていなかったことを取り上げて問題とすべきである。単純にブラウン運動を観察しようとすれば、集めにくい花粉を用いずとも塗料や鉱物の微粒子などでも充分に足りる。平田森三など多くの科学者が実際に眼にしたブラウン運動の実験は後者であった。これが、伝聞にあった「花粉が動く」と結びつけられてしまい、いつの間にかロバートの発見や自己の体験があたかも「花粉」を対象としたもののようにすり替えられてしまったと考えられている。 多くの書籍を確認した板倉と名倉は、同じ間違いが欧米諸国の辞典[要文献特定詳細情報]などにもあることを確認したが、これらは速やかに訂正されている。板倉は、欧米では原典との照会が頻繁に行われるのに対し、日本ではそのような作業に立ち返る習慣が根付いていないためと推測している。 また、初期の翻訳にも誤解を生んだ根源がある。『PSSC物理』原著[要文献特定詳細情報]にある「tiny particles from the pollen grains of flowers」という文を、訳書『PSSC物理(第二版)』(岩波書店)では「花粉の小粒子」と訳している。これでは花粉から出た粒子なのか、数ある花粉のうち粒子径の小さなものなのか釈然とせず、後者すなわち小粒子=花粉という誤解を生みかねない。板倉は当時の教科書の記述も確認しているが、「ブラウンが花粉を観察しているときに発見」という、誤った解釈に陥りやすい表現が多かった。 そして、自ら確かめずに権威のある書籍などを鵜呑みにして引用してしまう態度にも問題があると板倉は指摘する。現代、教科書や啓蒙書を執筆する際、それぞれの分野は専門化が進んでいるため、著者の知見が及び得ない領域に踏み込まなければならない場合が多々あり、どうしても既存の文献類に頼ってしまうことは止むを得ない。しかし、そこには内包する誤りを拡大させてしまう可能性がある。この問題が表面化したひとつの例が、ブラウン運動にまつわる誤解だったと言える。
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