考工記とは? わかりやすく解説

考工記

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/18 13:40 UTC 版)

考工記』(こうこうき)は、中国の文献である。『周礼』の一部であり、工芸品および建築物の構造・寸法規格・製作技法について論じている。編者不詳[1]

成立

『考工記』は、周公旦の作と伝わる、周代の官制・行政組織を記した書である『周礼』の一篇である[2]馬融以来の通説としては、現在伝わる『周礼』は前漢代に発見されたものであるが、当時すでに六卿のうちの冬官司空の篇が欠けていた。『考工記』は独立した書籍であったが、これを補うために付け加えられたという[3]。『周礼注』を著した後漢の鄭玄は、「司空の篇亡ぶ。漢興りて千金に購求するも得ず。此れ前世其の事を識する者、記録し以て大数に備う」と述べている[4]。『考工記』で『周礼』司空篇を補った者としては、複数の説がある。そもそも『周礼』が朝廷に存在しなかったとおもわれる時代の人物である文帝説・武帝説は考慮しないとして、河漢献王劉徳説・劉歆説にはいずれも一定程度の信憑性がある[3]

『周礼』自体も伝説通り周代の成立とはいえず、はやくとも戦国期以降に成立したものであろうと考えられているが[5]、『四庫提要』にあるように、ことに『考工記』については、文中に「」や「」といった国名が出てくる以上、西周代のものである可能性はまったくない[6]

同書自体の成立年代についてはさまざまな異説異論がある[7]宇野精一のまとめるところによれば、これらの説はおおむね漢代説と先秦説に分類される。江永は文中に現れる地名や方言的な語彙からして、おそらくは東周以後のの人物による作であると論じている[3]津田左右吉は、『考工記』は漢の少府の属官である考工室に保存されていた記録であり、技術に関しては後世の学者が机上で考えることが難しかったため、これを借りたのであろうと論じている[7]

内容

冒頭に「国に六職あり」とあるように、攻木(木工)、攻金(青銅鋳造)、攻皮(皮革製造)、設色(絵画・染色)、刮摩(玉・石)、搏人(陶器製造)の6分野をおもに扱う。全体で7,000文字足らずにすぎないが、構成も整理されておらず、それぞれの分量もばらばらである[2]。たとえば、同書では、工人について以下のような順序で論じられているが、段氏・韋氏・裘氏・筐人・櫛人・雕人については名目を挙げただけで、内容は存在しない。原田淑人はこうした『考工記』の性質について、同書は元来簡牘書であり、いちじるしく摩滅・錯乱していたものを誰かが再度とりまとめたものではないかとしている[7]

  • 輪人為輪
  • 輪人為蓋
  • 輿人為車
  • 輈人為輈
  • 築氏為削
  • 冶氏為殺矢
  • 桃氏為劍
  • 鳧氏為鐘
  • 栗(㮚)氏為量
  • 段(𫨻)氏
  • 函人為甲
  • 鮑人之事
  • 韗人為皋陶
  • 韋氏
  • 裘氏
  • 画繢之事
  • 鍾氏染羽
  • 筐人
  • 㡛氏湅絲
  • 玉人之事
  • 櫛人
  • 雕人
  • 磬氏為磬
  • 矢人為矢
  • 陶人為甗
  • 旊人為簋
  • 梓人為筍虡
  • 梓人為飲器
  • 梓人為侯
  • 廬人為廬器
  • 匠人建国
  • 匠人営国
  • 匠人為溝洫
  • 車人之事
  • 車人為耒
  • 車人為車柯
  • 弓人為弓

受容

伝統的には『周礼注疏』の一部として、鄭玄賈公彦注疏とともに読まれた。清朝考証学の時代には、江永『周礼疑義挙要』、戴震『考工記図』などで研究された[8]。戴震『考工記図』は、寸法研究に数学の知識を積極的に活用している[9]。『周礼』の現代語訳としては、林尹による『周礼今注今訳』があるほか、本田二郎が『周礼通釈』を記している[10]。ほかに『考工記』のみの翻訳として、関増建らにより現代中国語・英語・ドイツ語訳である『考工记——翻译与评注』が出版されている[11]。同書は2019年にKao Gong Ji – The World’s Oldest Encyclopaedia of Technologies として改訂された[12]

日本の「藤原京」の都市計画は、『考工記』の影響を受けていた、と推定される[13]

出典

  1. ^ 宮島一彦考工記」『日本大百科全書(ニッポニカ)』https://kotobank.jp/word/%E8%80%83%E5%B7%A5%E8%A8%98コトバンクより2024年12月6日閲覧 
  2. ^ a b 布野修司『周礼』「考工記」匠人営国条考」『traverse : kyoto university architectural journal』第14巻、2013年10月1日、80–95頁、doi:10.14989/traverse_14_80ISSN 2435-6891 
  3. ^ a b c 宇野精一「中国古典學の展開」『宇野精一著作集 第2巻』明治書院、1986年、253-258頁。 
  4. ^ 本田二郎『周礼通釈 下』秀英出版、1979年、404頁。doi:10.11501/12213982 
  5. ^ 佐藤信弥「伝世文献と出土文献」『周―理想化された古代王朝』(kindle)中央公論新社〈中公新書〉、2016年、15頁。 
  6. ^ 本田二郎『周礼通釈 上』秀英出版、1977年7月、10頁。doi:10.11501/12291956 
  7. ^ a b c 原田淑人周官考工記の性格とその製作年代とについて(史海片帆-2-)」『聖心女子大学論叢 = Seishin studies』第30号、聖心女子大学、1967年12月、15-27頁。 
  8. ^ 田中有紀「鐘の鋳造と『宣和博古図』の古器蒐集」、宋代史研究会『宋元明士大夫と文化変容』汲古書院、2023年。ISBN 9784762967344。93頁。
  9. ^ 近藤光男「戴震の『考工記図』について」『清朝考証学の研究』研文出版、1987年。ISBN 978-4876360765
  10. ^ 南昌宏「<日本における『周礼』研究論考> 略述」『中国研究集刊』第10巻、1991年、84–92頁、doi:10.18910/60844 
  11. ^ 考工记——翻译与评注-学术-作品库_译研网” (英語). www.cctss.org. 2024年12月18日閲覧。
  12. ^ Guan, Zengjian; Herrmann, Konrad (2019-12-19) (英語), Kao Gong Ji: The World’s Oldest Encyclopaedia of Technologies, Brill, ISBN 978-90-04-41694-9, https://brill.com/display/title/56282 2024年12月18日閲覧。 
  13. ^ 相原嘉之「古代都城形成史-王都における条坊制の導入過程-」『明日香村文化財調査研究紀要』 17巻、2018年、10頁https://www.asukamura.jp/files/bunkazai_kiyo_chosya/64.pdf 

考工記

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周礼」の記事における「考工記」の解説

zh:考工記」も参照 上記のように『考工記』は本来『周礼』とは無関係な書物であった考えられる。『考工記』は現存する中国最古工業技術であってさまざまな器物中国の青銅器など)の寸法細かく述べている。 清以来多く研究がある。戴震は『考工記図』を作っている。江永によると、『考工記』は東周以後の斉の人によって書かれた。

※この「考工記」の解説は、「周礼」の解説の一部です。
「考工記」を含む「周礼」の記事については、「周礼」の概要を参照ください。

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