繊維学専門家による鑑定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/11/01 16:51 UTC 版)
赤木は岡山県内で綿の栽培が行われている場所を探すと、岡山県農業試験場(現岡山県農林水産総合センター)分室の畑作灌漑試験地(東高梁川廃川地、現倉敷市中洲)で綿が栽培されていると知り、1959年(昭和34年)の8月に試験場の許可をもらい開花前後の綿の花を譲り受け、開花直後、24時間後、48時間後の蒴果をそれぞれ切開してホルマリンで固定し、翌年には自宅の庭で陸地綿の栽培を行い綿毛の成長する過程を観察した。これらの経験はN農婦から排出される綿毛の熟れ加減を知るのに役立ったという。 しかしながら赤木も田尻も医療に携わる身であって、綿などの繊維や植物についての専門家ではない。そのため2人は植物形態学、作物栽培学、農芸化学、繊維学といった複数の学者に専門家の立場からの検査協力を依頼した。この頃になると綿ふき病は新聞や週刊誌などマスコミを介して広く知られはじめており、様々な分野の専門家が遠路田尻医院を訪れるようになっていた。田尻は医療関係者だけでなく様々な分野の専門家らに対しても快く迎え入れ、これまでの経緯について説明、排出した大量の綿を提示したり、N農婦の創口を直接確認してもらうなど情報をオープンにして協力を惜しまなかった。 複数の専門家が排出した綿を譲り受け各々の研究機関へ持ち帰った。それらの鑑定結果はそろって、繊維素系のセルロースであって、しかも自然界のワタ属の種皮毛、つまり綿毛に間違いない、というものであった。 日本国内唯一の繊維学部を有する信州大学繊維学部教授の呉祐吉は、X線回折により天然綿であると確認し、工芸作物の専門家である東京教育大学教授の西川五郎は、完熟した陸地綿であることを確認した。岡山大学附属大原農業生物研究所に所属する教授の小澤潤二は、濾紙泳動法を使って自然綿毛や市販脱脂綿と糖質が同一であることを確認した。 民間の専門家からも同様の結論が導き出されており、例えば倉敷レイヨン(現クラレ)研究所の技師たちは様々な試験を行い、自然綿特有のねじれ(螺旋構造)や、中空の存在を確認している。このねじれについて岡山大学理学部の木村劼二は自然綿と同じ「ねじれ」であるものの、その断面には市販の脱脂綿には見られない原形質が存在することを指摘している。 綿毛の中空内部には原形質物質〔ママ〕が残存していて、これらの毛を苛性ソーダで処置するとセルロース陽性反応となり、N農婦の創口から産出する物質は天然綿の種皮毛と同一であると同定された。 ただし、天然綿と同一であったということは、見方を変えれば疑念材料のひとつになり得ず、赤木に対して「残念ながら真の綿毛に間違いなく、だれかがからだの中に置き忘れていたものでしょう。どうかお間違いをなさらないように」と、忠告した植物学の老大家もいた。
※この「繊維学専門家による鑑定」の解説は、「綿ふき病」の解説の一部です。
「繊維学専門家による鑑定」を含む「綿ふき病」の記事については、「綿ふき病」の概要を参照ください。
- 繊維学専門家による鑑定のページへのリンク