空気流制御デザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/12/02 14:07 UTC 版)
「プラット・アンド・ホイットニー J58」の記事における「空気流制御デザイン」の解説
J58は複合式ジェットエンジンである。状態遷移を示す右図に示す各要素については、以下の通りである。 ショックコーン(図中ではSPIKE): ショックコーンはマッハ2.5までは前進状態にあり、コーン先端で発生する斜め衝撃波は吸気口の縁よりも前方にある。 すなわちインテークはサブクリティカル状態にある。 マッハ2.5以上ではショックコーンが後退し、マッハ3.2では最後退位置となる。このとき、コーン先端で発生する斜め衝撃波は吸気口の縁に一致し、吸気口周辺は理想動作状態であるクリティカル状態となる。ただし背圧が適正でない場合にはクリティカル状態を保てない。 中央胴体ブリード(CENTERBODY BLEED): ショックコーン最大断面部に多数開けられた穴と、この穴を通過する空気を通す経路によって構成される。常時開いており、始動時にはダクト外部からショックコーンへ向けて空気が流れエンジン吸入空気量を増やす。飛行時には常にショックコーンからダクト外部へ向かって空気が流れる。これはコーン表面で摩擦を受けて速度エネルギーを失った空気がエンジンに流れ込むことを抑制する。 衝撃波トラップブリード(SHOCK TRAP BLEED): 飛行中、インテークダクト内部に発生する垂直衝撃波と斜め衝撃波を吸い込むと共にエンジン冷却空気を供給する。 前方バイパスドア(FWD BYPASS DOORS): ショックコーンの最大断面積部の直後のインテークダクト壁面にある。始動時に開いてエンジン吸入空気量を増やす。このとき、前方バイパスドアの外から中に向かって空気が流れる。 亜音速飛行時には閉鎖される。 超音速飛行時には前方バイパスドアが開き、ダクト内の流量制御によって背圧を制御し衝撃波の位置を制御する。このとき、中から外に向かって空気が流れる。 マッハ3.2での巡航時には前方バイパスドアは再び閉鎖され、必要に応じて開いて衝撃波位置の制御を行う。 後方バイパスドア(AFT BYPASS DOORS): インテークダクト最後部(エンジン本体直前)にある。 始動時とマッハ2.5以下での飛行時は閉じている。 マッハ2.5を超える飛行時には後方バイパスドアが開き、空気が過剰に供給されるのを防ぐ。 後方バイパスドアを経由した空気は衝撃波トラップブリード等を経由した空気と合流してBYPASS AIRとなり、エンジン外周を経由してノズルへ送られる。 バイパスエアはアフターバーナーから噴射された排気ガスとノズル内部で混合して体積と流量を増大し推力を増すほか、エンジン冷却の機能も持つ。 吸入式ドア(SUCK-IN DOORS): バイパスエア経路の外周中ほどにある。始動時に開いてエンジン冷却空気を供給する。飛行中には吸入式ドアは閉鎖される。 第3ドア(TERTIARY DOORS): ノズルの直前、アフターバーナーの直後に配置されており、始動時と亜音速飛行時には開いてノズルの外側から内側に向かって空気が吸い込まれる。空気はノズル内部でアフターバーナーから噴射された排気ガスと混合して噴射され、推力を増大する。 第3ドアは超音速飛行時には閉じる。 エジェクターフラップ(EJECTOR FLAPS): ノズル最後部を形成する。音速を超えると共に開き始め、ノズル膨張比を速度と高度に応じて制御する。マッハ3.2で全開となる。 以上のメカニズムによって、マッハ3周辺では最初のショックコーンによるラム圧縮で空気が既に加熱され、ターボジェットは燃焼室内の燃料/空気の比率を下げなければ、タービンが焼損する。マッハ3周辺ではターボジェット部の圧縮機と燃焼室による推力は20%に低下し、残り80%の推力がインテークダクトでのラム圧縮とノズルでの膨張(アフターバーナーを含む)によって生み出される。言い換えると、推力のうち20%のみが圧縮機と燃焼室によって分担され、80%はインテークダクトとアフターバーナーで分担される。
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