発見と認識
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/05/08 02:51 UTC 版)
1976年に Seymour Schlanger、Hugh Jenkyns らにより初めて報告されたこの事変は、有機物が分解されないまま地圧等で変成されて生成された黒色頁岩のような地層が、浅海・深海を問わず、海洋規模ないし全地球規模で同時に堆積していることから見いだされた。この地層の調査から、過去に少なくとも 3回の大規模な海洋無酸素事変 (OAE) が起きたことが認識されている(なお、この他にも幾度か絶滅事変が起きているが、その原因についても研究が進められている)。 この事象が起きると海底付近は無酸素(または極度の低酸素)状態となり、有機物を分解する好気性細菌や動物が生息できない状態となる。海底へ沈んだ生物の死骸等(デトリタス)を分解する生物が海底にいなくなるため、沈んだデトリタスはそのまま堆積する。 つまり、この事象が起きた年代の地層には大量の植物プランクトンや陸生植物その他の生物の死骸が分解されないまま堆積していることが特徴で、そうした地層が特定の年代かつ広範囲にわたって見られることや、その葉理の様子から、海洋無酸素事変の発生が見いだされる。最近ではジュラ紀前期および白亜紀中 3期間で認識されている(en:Hangenberg event、en:Aptian extinction、en:Cenomanian-Turonian boundary event)。 局所的な富栄養化や生物相の貧困化による酸素欠乏状態は現代でも見られる(たとえば赤潮など)が、それが全球規模に拡大すると、逃げ場を失った生物の大量絶滅が起こり、生物多様性が著しく減退する。事実、その時代の地層から発見される化石の種類などからその傾向が見出されている。 また、表層と深層の間で水循環が起こらない、当時と似た環境を研究することで、当時の環境を推定する研究もされている。たとえば日本の上甑島・貝池や、アメリカ合衆国ニューヨーク州のグリーンレイク、黒海などの部分循環湖が該当し、こうした環境では表層部に炭素固定を行う植物プランクトンや窒素固定も行うシアノバクテリアが生息するものの、ある水深(貝池では5メートル、グリーンレイクでは 20メートル付近)を超える深層は水の循環がない酸素欠乏状態となり、その境界部には紅色硫黄細菌や緑色硫黄細菌などの嫌気性光合成細菌が高密度で生息(これらは酸素は無いが太陽光が届く範囲に集まる)し、それより下は硫酸還元細菌などの限られた生物のみが棲む層になる。 このような環境から類推すると、当時の海は広範にわたって硫化水素のような有毒物質も多く存在する環境であり、多くの生物が死滅する一因になったとも考えられている。
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