狭義のカサガイ類
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/24 18:00 UTC 版)
かつては腹足類で最も原始的な体制を持つのはオキナエビスやアワビの仲間で、カサガイ類はここから進化して二次的に貝殻の巻きを失ったものと考えられていた。しかし、最近の研究によって今日生存する腹足類で最も原始的な体制を持つのはこのカサガイ類であって、もともと左右非対称の螺旋に巻いた殻を持った祖先はいなかったと考えられるようになった。 雌雄異体で、体外受精を行う。草食性の体外受精の腹足類はアワビやサザエに見られるように暗緑色の卵が多いが、カサガイ類の卵は小豆色であることが多い。雌雄が水中で放卵放精し、受精卵から発生した胚はトロコフォア幼生で孵化。トロコフォア幼生は殻を持ったベリジャー幼生に変態してから着底、稚貝になる。幼生は植物プランクトンなどを摂食せず、卵の中の卵黄だけで成長する。 カサガイ類に属する主要な科はツタノハガイ科 Patelidae とユキノカサガイ科 Acmaeidae で、日本ではツタノハガイ科のカサガイ、マツバガイ、ヨメガカサ、ツタノハガイ、ユキノカサガイ科のアオガイ類、ウノアシなどがよく知られている。 日本のカサガイ類で厳密に特定の「家」への回帰行動する種はツタノハガイとウノアシが知られ、マツバガイは特定の岩の割れ目などの隠れ家に回帰する傾向がある。 南アフリカのユキノカサガイ科のカサガイ類では多様な生態が研究されており、「家」の周辺に餌となる特定の種の藻類を栽培管理し、それだけを食べて生活しているものや、コンブ類の海藻に吸着して寄生生活を送るものなどが知られている。 これらの狭義のカサガイ類の歯舌は稜舌型といって、少数のきわめて大型の歯が幅の狭い基底膜の上に対を成して並んでいる型である。この型の歯舌は単に前後に往復運動をすることができるだけで、他の草食性の貝類の歯舌の様に餌となる藻類を巻き込んだり引きちぎったりする運動はできない。そのため葉状に立ち上がった海藻をうまく食べることはできない。しかしきわめて頑丈で強力な歯ががっちり固定されているので、岩の表面にフィルム状に広がった微細藻類を岩ごと削り取って摂食するには非常に適している。そのため、カサガイ類が多く住む岩礁潮間帯では肉眼で確認できるような海藻類が微細な芽生えのうちに削り取られてしまい、生えなくなる。こうした場所からカサガイ類を人為的に除去すると、それまで抑制されていた大型の海藻が生え始める。そうなるとカサガイ類は吸着する岩盤を海藻に奪われるとともに、微細藻類だけが生えている露出した岩盤が少なくなるので餌を食べることも困難になり、再進入が妨げられることになる。このように、カサガイ類は岩礁潮間帯の環境形成に大きな役割を果たしているグループである。 カサガイ類は小型で大量に採集することは難しいので商業的に漁獲されることは少ないが、様々な地域で、磯で簡単に採集されるおかずとして採集され、食用にされる。ハワイではオピヒと呼ばれ珍重され、オピヒマン、オピヒピッカーと呼ばれる専門の漁師も存在するが、波の荒い岩礁での採取は危険が伴うため、しばしば事故が起こることもある。
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