洗濯
『異苑』巻5-4 昔、乙女が豚水(とんすい)で洗濯をしていて、節の3つある大きな竹を見た。竹は乙女の足の間へ流れ入り、押しやっても離れない。竹の中から泣き声が聞こえるので、割ってみると小さな男児がいた。この子は成長して才能を発揮し、武芸にも秀(ひい)で、後に夜郎県の竹王となった。
『オデュッセイア』第6巻 女神アテナが、パイエケスの王女ナウシカアの夢枕に立ち、「あなたは婚礼も近いのだから、夜が明けたら衣裳を洗いに出かけなさい」と告げる。ナウシカアは侍女たちを連れ、車に多くの衣類を積んで、川辺へ洗濯に行く。洗濯が終わると、彼女たちは食事をし、皆で毬(まり)遊びに興じる。川辺で眠っていたオデュッセウスが目をさまし(*→〔眠る男〕2)、ナウシカアの前に姿を現す。
『古事記』下巻 「引田部(ひけたべ)の赤猪子(あかゐこ)」という美しい童女(をとめ)が、美和河で衣を洗っていた。そこへ雄略天皇がやって来て、童女に名を問い、「汝は結婚せずにおれ。近いうちに宮中に召し入れよう」と告げて、帰って行った→〔処女妻〕5b。
★2.婆が洗濯する。
『桃太郎』(昔話) 婆が川で洗濯をしていると、川上から桃が流れて来る。家へ持って帰り、切ろうとした時、桃は割れて桃太郎が生まれる。桃太郎は1杯食べれば1杯だけ、2杯食べれば2杯だけ大きくなり、1つ教えれば10まで覚えて、力持ちの少年に成長する(青森県三戸郡)。
★3.男が洗濯する。
『濯(すす)ぎ川』(新作狂言) 入り婿である男が、妻の言いつけで、川へ行って洗濯をする。妻と姑(しうとめ)がやって来て、「早く洗濯をすませて、粉(こ)を挽け」「水を汲め」と、次々に仕事を命ずる。男は、川へ落ちた妻を助けて恩を着せ(*→〔契約〕3)、一家の主人としての権威を取り戻そうとするが、妻に一喝され、「許いてくれい」と悲鳴を上げて逃げて行く。
『フランス田園伝説集』(サンド)「夜の洗濯女」 夜、沼や池のほとりで、幻の洗濯女たちが叩く洗い棒と、濯ぎ洗いの音が聞こえる。彼女たちは、嬰児殺しの母親の亡霊である。叩いたりしぼったりしているものは、濡れた洗濯物のように見えても、本当は子供の死体なのだ。それぞれ自分の子を洗う。何度も罪を重ねた母親は、複数の子を洗う。洗濯女を見つめたり、邪魔したりするのは禁物だ。一人前の男でも、洗濯女につかまると、靴下のように水の中で叩かれ、しぼられてしまう。
★5.洗濯石鹸の泡。
『幕末百話』53 幕末にコロリが大流行して、大勢が死んだ。神奈川の茶店の婆さんが、「コロリは、浦賀へ来た黒船が置いて往った魔法です。異人が海岸で何か洗い、真っ白なアブクがいっぱい出た。アレが魚の腹へ入り、江戸の人の口に入った。ソノ白いのが魔法のタネなんです」と、詳しく話した。今から考えると馬鹿々々しい。石鹸(しゃぼん)なのだ。
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