泉
★1a.神に祈ったり、岩に穴をあけたりして、泉を湧き出させる。
『黄金伝説』48「聖ベネディクトゥス」 修道院が高い岩山の上にあり水が不自由だった。聖ベネディクトゥスが山頂に石を3つ置き、人々がそこを少し掘ると、こんこんと水が湧き出た。
『黄金伝説』139「大天使聖ミカエル」 大天使ミカエルが人々に教会の建設を命ずる。その地には水がなかったが、人々がミカエルの指示で岩に穴をうがつと、水がゆたかに流れ出た。
『黄金伝説』164「聖クレメンス」 聖クレメンスが流刑された土地は、水が不自由だった。彼はイエス・キリストに祈り、1匹の小羊の立っていた所をつるはしで打ち、泉を湧き出させた。
『日本書紀』巻7〔第12代〕景行天皇18年(A.D.88)4月 景行天皇が熊襲征討の途次、葦北の小島に停泊した。帝に奉るべき水が島内になかったので、天神地祇に祈ると、寒泉が崖のほとりから湧き出した。その島を名づけて水島という。
『異苑』巻5-4 竹王(*→〔洗濯〕1)が従者と一緒に石の上で休み、羹(あつもの)を作るよう命じた。従者が「水がありません」と言うので、竹王は剣で石を撃った(「突き刺した」という解釈もある)。すると、泉がそこから湧き出た。その泉(竹王水)は今もある。
『撰集抄』巻7-5 仲算大徳が女に水を請うたが、女は「貴い聖よ、水を湧かして飲み給え」と、ことわった。仲算は剣を抜き、山の端を切る。たちまち、冷たく清らかな水が滝のごとく流れ出た。これが醒井の清水である。後に浄蔵貴所がそのそばを切って、同様に水を出した。これが小醒井である。
『蒙求』493・512所引『後漢書』列伝9「耿恭伝」 後漢の耿恭は、匈奴征伐に際して水に窮した時、「昔、将軍・李広利が刀を山に刺しこんで、飛泉を湧き出させた」との故事を思い出し、空の井戸にむかって祈った。しばらくすると水泉が奔出した。
『処女の泉』(ベルイマン) 豪農テーレの1人娘が、森で暴行されて殺された(*→〔宿〕4a)。テーレと妻が、横たわる娘の死体を抱き上げると、娘の頭のあった場所から、たちまち清らかな泉が湧き出た。
『水妖記(ウンディーネ)』(フーケー) 水の精ウンディーネは自分を裏切った騎士フルトブラントを抱きしめて、彼の命を絶った。フルトブラント埋葬の時、見知らぬ白衣の女がおり、いつのまにか姿を消した。彼女がひざまづいていた跡から泉が湧き、水が騎士の土饅頭を囲んで池に注いだ。村人は、「ウンディーネが両の腕で恋人をやさしく抱いているのだ」と信じた。
『捜神後記』巻1-11 昔、舒氏の娘が、父親と一緒に薪を伐(き)っているうちに、その場に坐(すわ)り込んで動かなくなった。父親が家人を呼びに行き、戻って来ると、清らかな泉が満ち溢れているのが見えるだけだった。娘は音楽が好きだったので、弦歌を奏してみると、水が湧き出て廻流し、朱色の鯉が現れた。この泉は「姑舒泉」と呼ばれ、今でも、音楽に応じて湧き出すという。
★3.泉の名を嫌う。
盗泉の水の故事 孔子は盗泉の傍らを通り過ぎる時、喉が渇いていたが、その泉の水を飲まなかった。「盗」などという名を持つ泉の水を飲むのは、恥ずべきことだからである〔*彼は、勝母という名の村にも泊まらなかった。「母に打ち勝つ」というようなことは、子としての道に外れるからである〕。
★4.泉に落ちる。
『水の魔女』(グリム)KHM79 幼い兄と妹が泉のそばで遊んでいて、2人とも水の中へ落ちる。泉の底には魔女がおり、2人をつかまえて連れて行き、働かせる。姉は亜麻から糸を取り、水を運ぶ。弟は斧で木を伐る。食べ物は、かちかちの団子だけだった。2人は、つらい毎日に堪えられず逃げ出す→〔呪的逃走〕1。
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