水銀化合物の毒性
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/06 08:51 UTC 版)
液体の金属水銀は弱い毒性を持つにとどまるが、水銀蒸気や塩、有機水銀化合物の毒性は高く、摂取・吸入・摂食すると、脳や肝臓に障害を与えるとされている。 ジメチル水銀は最も危険であるとされ、数マイクロリットルを皮膚にこぼすと、ラテックス製の手袋の上からであってさえも死亡の原因となる。主に作用するのはピルビン酸脱水素酵素 (PDH) である。酵素複合体のリポ酸部分が水銀に強く結合することによって機能が破壊される。リポ酸中の硫黄原子は水銀と結合しやすいためである。 メチル水銀は環境中から食物連鎖に取り込まれたあと生物濃縮されることによって、マグロなどに高濃度が蓄積される。汚染された食物を摂取すると水銀中毒が起こる。食物連鎖の上方へ向かうに従って濃縮が起こっていくため、マグロやメカジキ、バンドウイルカ、クジラなど大型の魚類、海洋性ほ乳類には注意が必要である。アメリカ食品医薬品局 (FDA) は、出産可能年齢の女性と子供に対し、メカジキ、サメ、キング・マッケレル(サワラの近縁種)、アマダイは完全に避け、タラバガニ、ズワイガニ、ビンナガ、ツナ・ステーキは週に6オンス(約170グラム)以下に控えるように勧めている。しかし、アメリカにおいては、基準を守って適量の魚を食べることによって、健康に深刻な影響があらわれることを示す証拠は得られていない。ハーバード・メディカルスクールによる母親と乳児についての研究によると、メチル水銀の潜在的な危険性をおそれるよりも、水銀濃度の低い魚であれば、魚を食べることによって得られる栄養学上の利点の方が大きいと報告されている。その研究では、妊娠中の母親が食べた魚の量と、嬰児の認識力の増加が関連付けられた。 エチル水銀は殺菌剤チメロサールの分解生成物である。メチル水銀と類似した効果を持つが、同じではない。 金属水銀の毒性は有機水銀化合物よりもはるかに低いものの、生体内に取り込まれると有機化合物へと変換されるため、環境中に放出されると汚染が問題となる。無機水銀化合物の毒性は有機水銀化合物より低い。水銀鉱山(とくに製錬所)、水銀を取り扱う化学工業(水銀が原料の白粉など)などで蒸気となった水銀を労働者が吸い込み、無機水銀中毒になるケースが多かった。ただし、水銀鉱山では早くから水銀の有害性を認識しており、防毒マスクの完全着用、精錬設備の密閉化、換気の強化、(水銀の体内からの排出に効果があるとされる)生野菜や牛乳の労働者への無償提供など、安全対策を講じていた。
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