水路橋
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(フランス・ニーム)

水路橋(すいろきょう)は、川や谷を渡って水を運ぶための橋である。形態から開水路橋と水管橋に分けられ、用途から水道橋や運河橋などと分類される。古風な呼び方として懸樋(かけひ)がある。川の下をくぐる構造物は伏越と呼ばれる。
概要
水道橋は歴史的には古代ローマのものが有名である。古代ローマではすでに逆サイフォンの原理が知られていたが、巨大な逆サイフォンを建設した場合、出水孔の水位が入水孔と同じ高さまで上がってくるかどうかが知られていなかった(実際には同じ水位になる)。このため、逆サイフォンを建設した方が安上がりな場合においても、水道橋の建設にこだわったと考えられている。
フランスには、ポン・デュ・ガール[1][2]やロックファヴール水道橋[3]などがある。
水管橋
水管橋(すいかんきょう)は水路橋のうち、橋の上部が水の通る管からなるものである。
日本の水路橋
熊本県の通潤橋(つうじゅんきょう)は、白糸台地に水を送る農業用水を主目的とした灌漑用水路橋である。高い位置から水を落として深い谷を越えるように、逆サイフォンの原理を使用している[4]。豊富な水量とそれにかかる水圧、高低差の大きい水路管の気密を石材と目地材の漆喰(しっくい)で保つのが難しく、橋梁本体との併用になったとされる。
また、大分県には日本最大級の6連アーチ橋である明正井路一号幹線一号橋がある[5][6]。
日本遺産の琵琶湖疏水には南禅寺境内を橋で通過する水路閣がある[7]。
東京の水道橋(すいどうばし)[8]及び水道橋駅は、神田上水懸樋と呼ばれる懸樋があったことにちなむ地名である。
また、世界最長の支間長をもつ吊橋である明石海峡大橋では、神戸市側から明石海峡をまたぎ淡路島への水道管が配管され主塔の高さは東京タワーに迫る海面上約300m[9]。海を渡る水道橋の役割も持ちあわせており[10]、淡路島での慢性的な水不足[11]が解消されている。長大橋であることと海上をまたぐ水道管であり、過酷な状況下で大伸縮を含めた橋梁の変位に対応する独特の伸縮装置などの設計がなされ、道路併用橋では世界最長の水道橋になる。
水路橋に関する問題点
最近高度成長期に建設された水路橋が半世紀の使用にわたる脆弱化や最近の災害による脆弱化、或いは自治体の予算不足による点検及び整備不備が相まって崩落事故が発生している。2021年(令和3年)10月3日に発生した和歌山県和歌山市紀の川の六十谷水管橋崩落事故[12]がその一例である[13][14][15]。
また平木橋(兵庫県)に見るように、100年を経た水路橋を移設し保存した例もある[16]。
様々な水路橋
世界の水路橋
ザグアンから発する水道橋は全長およそ全長120kmで世界最長とされる[17][18]。長大吊り橋の代表はかつて、中央支間長1,991mのハンバー橋(1981年完成 イギリス)であったが、明石海峡大橋に抜かれた[9]。
脚注
- ^ 『世界の橋』 2017, p. 9.
- ^ 『西洋の名建築解剖図鑑』 2023, 「ガールの水道橋」.
- ^ 『世界の橋』 2017, p. 127.
- ^ 片寄俊秀(著)、建築とまちづくり編集委員会(編)「石橋の旅シリーズ (5) 通潤橋(熊本県)」『建築とまちづくり』第10巻第53号、新建築家技術者集団、1981年11月、27-、doi:10.11501/3247631、2025年7月15日閲覧。
- ^ 西戸山 学「大分県 ■明正井路一号幹線一号橋/白水ダム」『地域の発展につくした日本の近代化遺産図鑑』 5巻、岩崎書店、2018年12月。ISBN 978-4-265-08665-8。国立国会図書館書誌ID: 029398220。
- ^ 砂田光紀 文・写真「明正井路一号幹線一号橋」『九州遺産 : 近現代遺産編101』国土交通省九州運輸局、九州産業・生活遺産調査委員会 監修、弦書房、福岡、2005年6月。 ISBN 4-902116-35-9。国立国会図書館書誌ID: 000007782710。
- ^ “水路閣 : 見どころ (日本遺産 琵琶湖疏水)”. biwakososui.city.kyoto.lg.jp. 京都市. 2025年7月15日閲覧。
- ^ 馬場 一「多摩水道橋架替えに伴う旧橋撤去工事(特集:近接施工)」『土木施工』第37巻第11号、1996年11月、11-16頁、国立国会図書館書誌ID: 4056145。掲載誌の副題『構想・計画調査設計・施工・維持補修・管理の総合土木技術誌』
- ^ a b “【明石海峡大橋添架送水管】図:送水管添架断面図(淡路側から神戸側を望む)” (PDF). 淡路広域水道企業団. 2013年6月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年7月15日閲覧。 “添架送水管の概要=管種:SUS316、口径:450mm、延長4.2km×2条”
- ^ “ANAたび図鑑 : 高さ300mの絶景パノラマ。世界最長の吊り橋「明石海峡大橋」”. warp.ndl.go.jp. ANA. 2020年1月22日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年7月15日閲覧。 “橋の下では点検も欠かせないため、作業車両が通れるように幅広の通路になっている。水道管や電気ケーブルも通っているため、明石海峡大橋は、淡路島の大切なライフラインなのだ。”
- ^ 淡路県民局 北淡路農業改良普及センター (2009年6月8日). “3 水不足が深刻です(淡路地域:農業・農村現地情報 H21/5/19〜6/10)”. 兵庫県庁. 2011年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年7月15日閲覧。
- ^ 工藤 修裕 (2022年5月16日). “2021年10月和歌山水道橋崩落 調査報告書の掲載”. 災害速報. 土木学会. 2025年7月15日閲覧。
- ^ 緒方太郎、鍬田泰子、大室秀樹(著)、土木学会地震工学委員会ライフライン防災・減災技術の高度化と体系的活用検討小委員会(編)「地盤の2次元弾塑性」(PDF)『インフラ・ライフライン減災対策シンポジウム講演集』第12巻、土木学会、2022年。
- ^ 宮定 章(著)、和歌山大学Kii-Plusジャーナル編集委員会(編)「防災力向上に向けた断水経験からの分析 : 六十谷水管橋崩落事故断水における学生へのアンケート調査から」『和歌山大学Kii-Plusジャーナル』2号、和歌山大学紀伊半島価値共創基幹Kii-Plus、2022年5月、51-57頁、国立国会図書館書誌ID: 031465339-i30384645。
- ^ 「序」『きゅうすい工事』第24巻第1号、給水工事技術振興財団、NDLJP:14288748。「鍬田泰子准教授に「災害時に最も水道水を必要としているのは誰か?」を執筆いただき(中略)令和3年10月に和歌山市内で起きた六十谷水管橋崩落事故で、その調査委員会の座長を務められ(後略)」
- ^ 渡部 竜生「大正時代の水路橋を移設保存 : 平木橋移設保存工事(兵庫県)」『日経コンストラクション』第465号、2009年2月13日、30-35頁、国立国会図書館書誌ID: 9787620。掲載誌別題『Nikkei construction』
- ^ 旅と観光研究会 編『世界の旅と観光』 5巻《ヨーロッパ2、中近東・アフリカ編》、新日本法規出版〈Visual travel guide〉、1993年11月、(コマ番号:97 )頁。「ローマ帝国の勢力を示す、世界最長の水道橋。チュニスに水を引くために、60kmも南にあるザグアンから橋が続いていて、全長120kmぐらい(後略)」 送信サービスで閲覧可能。
- ^ 中内㓛、渡辺英二「こんにちは、広報委員長です-56- 日揮社長渡辺英二日本チュニジア経済委員長にきく : チュニジアン・ブルーに映える国」『Keidanren』第42巻1(通号493)、経済団体連合会、1994年1月、6-9(コマ番号:4)、doi:10.11501/2883460。「浴場やそれに水を引く世界最長の水道橋など(後略)」
参考文献
- マーカス・ビニー『巨大建築の美と技術の粋 世界の橋』河出書房新社、2017年。 ISBN 978-4-309-27838-4。
- 『西洋の名建築解剖図鑑 : 歴史をつくった70の名作を読み解く』川向正人、海老澤模奈人、加藤耕一 編・著、エクスナレッジ、2023年3月。国立国会図書館書誌ID: 032705894。
関連項目
- 懸樋
- ローマ水道
- 通潤橋
- 明正井路一号幹線一号橋
- 若宮井路笹無田石拱橋
- 新川 (新潟県) - 西川が上を渡る水路橋がある。
- 水道道路
- 天井川
水路・橋と同じ種類の言葉
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