水素化アルミニウムリチウムとは? わかりやすく解説

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水素化アルミニウムリチウム


水素化アルミニウムリチウム

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/10 02:38 UTC 版)

水素化アルミニウムリチウム
Wireframe model of lithium aluminium hydride
Unit cell ball and stick model of lithium aluminium hydride
Lithium aluminium hydride
物質名
識別情報
3D model (JSmol)
略称 LAH
ChEBI
ChemSpider
ECHA InfoCard 100.037.146
EC番号
  • 240-877-9
Gmelin参照 13167
PubChem CID
RTECS number
  • BD0100000
UNII
国連/北米番号 1410
CompTox Dashboard (EPA)
性質
Li[AlH
4
]
モル質量 37.95 g·mol−1
外観 白色の結晶(純粋な試料
灰色の粉末(市販品)
吸湿性
匂い 無臭
密度 0.917 g/cm3, 固体
融点 150 °C (302 °F; 423 K) 分解
反応する
テトラヒドロフランへの溶解度 112.332 g/L
ジエチルエーテルへの溶解度 39.5 g/(100 mL)
構造
単斜晶系
P21/c
熱化学
標準定圧モル比熱, Cpo 86.4 J/(mol·K)
標準モルエントロピー So 87.9 J/(mol·K)
標準生成熱 ΔfHo −117 kJ/mol
−48.4 kJ/mol
危険性[2]
GHS表示:
Danger
H260, H314
P223, P231+P232, P280, P305+P351+P338, P370+P378, P422[1]
NFPA 704(ファイア・ダイアモンド)
[3]
Health 3: Short exposure could cause serious temporary or residual injury. E.g. chlorine gasFlammability 2: Must be moderately heated or exposed to relatively high ambient temperature before ignition can occur. Flash point between 38 and 93 °C (100 and 200 °F). E.g. diesel fuelInstability 2: Undergoes violent chemical change at elevated temperatures and pressures, reacts violently with water, or may form explosive mixtures with water. E.g. white phosphorusSpecial hazard W: Reacts with water in an unusual or dangerous manner. E.g. sodium, sulfuric acid
3
2
2
W
引火点 125 °C (257 °F; 398 K)
安全データシート (SDS) Lithium aluminium hydride
関連する物質
関連する水素化物 水素化アルミニウム
水素化ホウ素ナトリウム
水素化ナトリウム
特記無き場合、データは標準状態 (25 °C [77 °F], 100 kPa) におけるものである。
 verify (what is  N ?)

水素化アルミニウムリチウム(すいそかアルミニウムリチウム、lithium aluminium hydride)は、組成式 LiAlH4で表されるアルミニウムヒドリド錯体無機化合物の一種であり、ケトンアルデヒドアミドエステルなどの還元に用いられる。粉末状の強い還元剤であり、と激しく反応し水素を発生するため、使用する際はジエチルエーテルなどの脱水溶媒を用いる必要がある。LAH(ラー)という略称がよく用いられる。

反応性

LAHは非常に強力な還元剤である。水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)も還元剤として知られているが、LAHの方がはるかに強力である。これは、Al-H結合が、B-H結合に比べて弱いためである。LAHは、エステルケトンアルデヒドアルコールへ、アミドニトリルニトロ化合物アミンへと還元する。ジエチルエーテルから再結晶した純粋なLAHは白色固体であるが、市販品はアルミニウムの混入により灰色をしていることが多い。空気に晒されても白色を保っているものは、水蒸気と反応した結果生成した水酸化リチウム水酸化アルミニウムが表面を覆っていると考えられる。

LAHはその塩基性の強さから、アルコールのようなプロトン性溶媒や水と激しく反応して以下のように分解される[4]

LAHを用いる有機反応

LAH について広く知られている反応はエステル[3][4]カルボン酸[5]を1級アルコールへと還元する反応である。LAH が開発される以前の反応は、金属ナトリウムエタノール中に加え加熱するという非常に厳しい条件での反応であった(ブーボー・ブラン還元)。LAH でアルデヒドケトン[6]もアルコールへと還元することができるが、より穏やかな試薬である水素化ホウ素ナトリウム等が用いられることも多い。α,β-不飽和ケトンはアリルアルコールへと還元される[7]エポキシドを還元する際には、LAH が立体障害が少ない方のエポキシド末端を攻撃するため、通常2級もしくは3級アルコールが生成する。

アミド[8][9]オキシム[10]ニトリルニトロ化合物、アルキルアジドを還元するとアミンが得られる。また、ハロゲン化合物を脱ハロゲン化しアルカンへと還元[11]することができる。

LAHは、単純なアルケンやベンゼン環を還元することはできないが、近傍に酸素官能基を有するアルキンをアルケンに還元できる[12]

反応機構

AlH4 が分解すると同時に、誘起効果もしくはメソメリー効果により低い電子密度を持っている有機化合物の活性中心をヒドリドイオンが攻撃する。

危険性

LAH は水と激しく反応し、時には空気中の水蒸気とも反応する。このため反応にはよく脱水した溶媒を用いる必要がある。純粋なものは発火性を持ち、特に静電気などの影響で着火して、溶媒のジエチルエーテルに引火する事故が多い。また発火した場合は水や二酸化炭素消火器ではなく、粉末式の消火器を用いて消火する。

またトリフルオロアセチル基を持った化合物をLAHで還元しようとすると爆発性の錯体を形成し、スケールによっては激しい爆発を起こすことがある。

日本では、消防法で定める第3類危険物(金属の水素化物)に該当する[13]

近年はタブレットやTHF溶液など、安全に使用できる製品が市販されており、LAHの工業的に大量使用できるようになっている[5]

熱分解

室温では LAH は準安定である。長期間保存しておくと徐々に八面体型六配位のヘキサヒドリドアルミン酸イオンを含む Li3AlH6 と LiH に分解する。この分解はチタンバナジウムなどの触媒存在下で加速する。

LAHの加熱分解には3つの反応機構が関係している。

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参考文献

  1. ^ D.D. Wagman, W.H. Evans, V.B. Parker, R.H. Schumm, I. Halow, S.M. Bailey, K.L. Churney, R.I. Nuttal, K.L. Churney and R.I. Nuttal, The NBS tables of chemical thermodynamics properties, J. Phys. Chem. Ref. Data 11 Suppl. 2 (1982).
  2. ^ J.S.Pizey, "Lithium Aluminium Hydride", Horwood-Wiley (1977).
  3. ^ F. ALBERT COTTON and GEOFFREY WILKINSON, Cotton and Wilkinson ADVANCED INORGANIC CHEMISTRY A COMPREHENSIVE TEXT Fourth Edition, INTERSCIENCE, 1980.
  4. ^ Reetz, M. T.; Drewes, M. W.; Schwickardi, R. Organic Syntheses, Coll. Vol. 10, p.256 (2004); Vol. 76, p.110 (1999). (Article)
  5. ^ Oi, R.; Sharpless, K. B. Organic Syntheses, Coll. Vol. 9, p.251 (1998); Vol. 73, p.1 (1996). (Article)
  6. ^ Koppenhoefer, B.; Schurig, V. Organic Syntheses, Coll. Vol. 8, p.434 (1993); Vol. 66, p.160 (1988). (Article)
  7. ^ Barnier, J. P.; Champion, J.; Conia, J. M. Organic Syntheses, Coll. Vol. 7, p.129 (1990); Vol. 60, p.25 (1981). (Article)
  8. ^ Elphimoff-Felkin, I.; Sarda, P. Organic Syntheses, Coll. Vol. 6, p.769 (1988); Vol. 56, p.101 (1977). (Article)
  9. ^ Seebach, D.; Kalinowski, H.-O.; Langer, W.; Crass, G.; Wilka, E.-M. Organic Syntheses, Coll. Vol. 7, p.41 (1990); Vol. 61, p.24 (1983). (Article)
  10. ^ Park, C. H.; Simmons, H. E. Organic Syntheses, Coll. Vol. 6, p.382 (1988); Vol. 54, p.88 (1974). (Article)
  11. ^ Chen, Y. K.; Jeon, S.-J.; Walsh, P. J.; Nugent, W. A. Organic Syntheses, Vol. 82, p.87 (2005). (Article)
  12. ^ 竹内敬人,2018,『サプリメント式 有機化学』,オーム社,p200
  13. ^ Wender, P. A.; Holt, D. A.; Sieburth, S. Mc N. Organic Syntheses, Coll. Vol. 7, p.456 (1990); Vol. 64, p.10 (1986). (Article)
  14. ^ 安全データシート - 和光純薬工業

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