有栖川有栖のアリバイ講義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/03 23:43 UTC 版)
「アリバイ」の記事における「有栖川有栖のアリバイ講義」の解説
有栖川有栖は、『マジックミラー』の第7章「アリバイ講義」において、ディクスン・カーの『三つの棺』の「密室講義」における密室トリックの分類に倣(なら)って、ミステリにおけるアリバイトリックの分類を行っている。作品例は、『マジックミラー』(講談社文庫)の「文庫版のためのあとがき」に紹介されているものである。 1.証人に悪意がある場合 証人が嘘をついていた場合 例:『ナイルに死す』(アガサ・クリスティ)、『不連続殺人事件』(坂口安吾) 2.証人が錯覚している場合 a.時間を錯覚している場合 証人が見る時計の針に細工をする、日にちを間違わせる、曜日を間違わせる、など。 例:『ウィスタリア荘』(コナン・ドイル) b.場所を錯覚している場合 証人が犯人と一緒にいる場所(アパート、新幹線、山や川など)を間違わせる、など。 c.人物を錯覚している場合 犯人が替え玉を使った場合。 例:証人がa、b、cすべてを錯覚している場合の作品 - 『人それを情死と呼ぶ』(鮎川哲也) 3.犯行現場に錯誤がある場合 例えば実際の犯行現場はA市の山林で、後で死体をB市の雑木林に移動させてB市を犯行現場と思わせるもの。 4.証拠物件が偽造されている場合 写真トリック(合成写真)が典型。 例:『フレンチ警部の多忙な休暇』(F・W・クロフツ) 5.犯行推定時間に錯誤がある場合 a. 実際よりも早く偽装する場合 例えば3時に殺された被害者が、2時には既に死んでいたように見せかけ、2時のアリバイを用意するというもの。 b.実際よりも遅く偽装する場合 例えば3時に殺された被害者が、4時まで生きていたと思われるよう細工して、4時のアリバイを用意するというもの。 例:2件の事件でaとbのそれぞれを用いている作品 - 『鍵孔のない扉』(鮎川哲也)A.医学的トリック 死体を冷やしたり熱したり、胃の消化物を加工したりして、死亡推定時刻の判定を狂わせるもの。 B.非医学的トリック 医学的トリック以外の方法で、aとbの例に挙げたような細工をするもの。 ※AとBにそれぞれaとbがある。 6.ルートに盲点がある場合 例えば移動するのに1時間かかる2地点間を、意外なルートを使って30分で移動するというもの。 時刻表を使った鉄道ミステリに作品例が多いが、例えば歩いて1時間かかる山道を断崖の上からパラシュートで数分で下ったというものも該当する。 例:『シタフォードの謎』『ゼロ時間へ』(アガサ・クリスティ) 7.遠隔殺人 a.機械的トリック 時限装置によって発射される拳銃や時限発火装置など。 b.心理的トリック 催眠術をかけた相手や夢中歩行癖のある相手に、危険な行為をさせるというもの。 例:『空白の起点』『炎の虚像』他(笹沢佐保) 8.誘導自殺 相手に精神的に大きなショックを与えて、自殺に追いやるもの。 例:『暗い傾斜』他(笹沢佐保) 9.アリバイがない場合 犯人が訴えるアリバイが、実はアリバイでも何でもなく、読者にアリバイがあると思い込ませるもの。 例:『真昼に別れるのはいや』他(笹沢佐保) なお、鯨統一郎は『九つの殺人メルヘン』(2001年)において、有栖川有栖の「アリバイ講義」におけるアリバイトリックの9つの分類に対応する9つの短編を著している。
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