有効場の理論の例
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2013/04/16 16:46 UTC 版)
フェルミのベータ崩壊の理論 エンリコ・フェルミによるベータ崩壊の理論は有効場の理論の有名な一例である。現在信じられている標準理論の枠組では、ベータ崩壊のような弱い相互作用に関する現象はワインバーグ=サラム理論を用いて記述される。フェルミがベータ崩壊について研究していた当時、弱い相互作用の担い手であるウィークボソンは知られていなかったため、フェルミは4点相互作用(4つのフェルミ粒子による点状相互作用)を導入することで、ウィークボソンを用いずにベータ崩壊を記述することに成功した。実際、フェルミ粒子が運ぶエネルギーがWボソンの質量より十分小さい低エネルギー領域()において、このような近似は妥当となる。 オイラー=ハイゼンベルク・ラグランジアン 量子電磁力学(QED)の低エネルギー領域についての有効場の理論として知られているのが、オイラー=ハイゼンベルク・ラグランジアンである。QEDに含まれる自由度は電子のような荷電粒子と電磁相互作用の担い手である光子だが、この理論の自由度は光子のみであり、QEDにおいて電子が関わるような過程は光子の4点以上の相互作用として置き換えられる。この理論は電子の質量と比べて十分小さいエネルギー()を運ぶ光子の相互作用について記述する理論であり、非線形QED現象(電磁場が2次以上で効くような現象)を調べるのに適している。 カイラル摂動論(chiral perturbation theory、ChPT) 量子色力学(QCD)の低エネルギー領域では、結合定数が大きくなるため摂動計算による解析が行えなくなり、クォーク・グルーオンの閉じ込めやカイラル対称性の破れなどの非摂動現象を記述することは困難である。QCDの中で、特に、軽いクォーク(アップクォーク、ダウンクォーク、ストレンジクォーク)から成る低エネルギー領域についての有効場の理論として広く利用されている理論がカイラル摂動論である。QCDに含まれる自由度はクォークとグルーオンだが、この理論では、有効な自由度としてパイ中間子やK中間子のような南部=ゴールドストンボソンが用いられる。すなわち、本来のクォーク・グルーオンによる相互作用は中間子によるハドロン間相互作用として扱われる。 ヘビークォーク有効理論(heavy-quark effective theory、HQET) ヘビークォーク有効理論は、QCDの中で、重いクォーク(チャームクォーク、ボトムクォーク)と軽いクォークが混在しているような系(D中間子やB中間子など)を記述するための有効場の理論である。このような系は、ほとんど静止したヘビークォークの周囲をライトクォークが飛び回っていると解釈される。このときのライトクォークが運ぶエネルギーは、QCDスケールΛQCDと同程度のオーダーになっており、このスケールはヘビークォークの質量mQと比べて十分小さくなる()。このようなスケールの分離を用いて、摂動展開を行うことができる。格子QCDと同様に、この理論を格子ゲージ理論として扱うこともできる(格子HQET)。 非相対論的QCD(non-relativistic QCD、NRQCD) 非相対論的QCDは、QCDの中で、重いクォークのみを含む系(クォーコニウムなど)を記述するための有効場の理論である。このような系は、ハドロン内部でヘビークォークが非相対論的に飛び回っていると解釈される。このときのクォークの速度v~〈p〉/mQを微少量として扱い、ヘビークォーク質量mQ、典型的な運動量mQv、典型的な束縛エネルギーmQv2の間でスケールの分離()を行うことで、摂動展開を行うことができる。格子QCDと同様に、この理論を格子ゲージ理論として扱うこともできる(格子NRQCD)。
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