形成・飛散過程
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/17 05:19 UTC 版)
種々の核分裂生成物を含む溶融した核燃料は、ジルコニウムとスズなどからなる燃料被覆管、鉄を主体とする圧力容器、および原子炉底部のさまざまな構造物を融かしながら落下し、格納容器内底部ペデスタル(土台)のコンクリートを熱分解・侵食して(溶融コア(コリウム)=コンクリート反応(英語版))、高い放射能をもつ燃料デブリを形成した。 しかし、セシウムボールの組成は炉心溶融で想定されるデブリとは一致していない。宇都宮聡らの研究グループは、運転中に燃料と被覆管の間に溜まっていたセシウムなどの揮発性の高い核分裂生成物が、燃料破壊後に気体およびエアロゾルとして圧力容器内に充満し、一方、溶融コアがペデスタルのケイ素を含むコンクリートを侵食したのち、気体となった一酸化ケイ素が酸素と結びつきセシウムボールの基質を構成したとのシナリオを提示している。急速に冷却して生じたこの多孔質のガラス質二酸化ケイ素にセシウムなどを含むエアロゾルが捉えられた。一方、国際廃炉研究開発機構などは、実験を通じてケイ素の供給源をコンクリートではなく圧力抑制室 (S/C) 内の塗膜に求め、その生成を3月14日、2号機の減圧・炉心溶融直後としている。 降下物がセシウムボールのような不溶性であった場合と、想定されていた硫酸エアロゾル(英語版)のような水溶性であった場合とでは、地表への沈着の様子も変化する。足立らはセシウムボールでは乾性沈着(英語版)(雨などに取り込まれず大気中から直接降下する沈着)が多くなり、2011年3月14日から15日を再現した気象シミュレーションなどにより沈着は原発の北西方向で相対的に少なく、南方向から関東地方にかけて多くなることを示した。宇都宮らは東京都内でエアロゾルを収集したフィルターの溶出実験により、2011年3月15日に東京に飛来した放射性セシウムのうち8割から9割がセシウムボールであったと推定している。これは東京都内に降下した粒子の個数に換算しておよそ2兆個に相当する。 さらに宇都宮らは、オートラジオグラフィーを利用した簡易測定法により福島第一原発周辺各地の放射性セシウム汚染におけるセシウムボールの寄与率を推定した。その結果、セシウムボールは2011年3月14日夜から15日午前に南方向に流れた放射性プルームと15日午後から16日未明に北西方向に流れたプルームに特異的であり、おおむね原発から離れるほど寄与率は高かった。特に、南方向へのプルームのセシウムボール寄与率は8割程度に達していた。
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