帰巣本能の習熟
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/02/09 01:35 UTC 版)
どの猟であっても、猟犬を猟場へ放した後でハンターの元へ戻って来られないようでは何もならない。 普段から餌付けの際に笛を吹くなどして、ハンターの合図で猟犬が自分の元へ戻ってくるような指導(呼び戻し)は絶対に必要になる。笛は犬笛、或いは口笛や指笛でも良いが、巻狩りで使役するのであれば、狩猟者なら猟場で即時に入手が可能である散弾銃等の薬莢を用いた笛の方が良い場合もある。笛が入手出来ない場合に備えて、名前を直接大声で呼ぶ事でも戻れる様にした方が良いが、犬の名前が余りにも奇を衒っていたり単純に長すぎたりする場合、連呼し続ける事が困難と成りかねない為、猟犬の名付けの際には2文字程度など出来るだけ短い名前に留めて置く事が賢明である。 また、猟の際に使用する車に犬を乗せ、エンジン音や車内のにおいなどを覚えさせることで、「ここが自分が戻ってくる場所である」ことを覚えさせることも必要である。なお、猟犬を車乗させる際には携帯式のケージを常時用いることが望ましい。万が一猟犬が猟場で行方不明になった際には、出発場所にケージと共にハンターの衣類などの所持品を置くことで、猟犬の帰巣を促すことが可能となるからである。 車に乗せる際にもケージに入れる際にも、猟犬がその行為に対して恐怖心を抱かず、「ここが自分にとって安全で、安心して休息できる場所である」ことを猟犬が自覚できるような配慮を、ハンター側が日頃から行うことが重要であることは言うまでもない。 尚、猟犬を持たない狩猟者であっても心得て置く必要がある事は、巻狩りの際に勢子長(使役される猟犬達の飼主である場合が多い)から猟犬回収の号令が出た場合には、「全ての行動に優先して、場の全員が猟犬の呼戻しを実施する」事である。例え獲物を射止めて止め差しや運び出しの作業の最中であったとしても、最低限血抜きの処置(長いナイフで心臓を直接突き刺すか、それが難しい場合には頚動脈を袈裟懸けに切り、頭を斜面の下に向けて安置する)のみを施した上で、一刻も早く猟犬の回収に向かうべきである。射手達が仕留めた獲物の処置に夢中になっている内に、猟犬達は別の獲物(或いは自動車などの動く物体)を勝手に追い始めてしまう場合があり、深追いが過ぎて滑落した結果行方不明となってしまったり、或いは山中を通る幹線道路や鉄道の軌道敷に迷い出て交通事故に至ったり、登山者など他の人々に出会して咬傷を負わせてしまう等の事象を引き起こす危険性がある。こうした事態を予防する意味でも、勢子長は猟犬が獲物に完全に撒かれてしまったり、或いは仲間の誰かが獲物を1頭でも仕留める等して、「猟犬をこれ以上猟場に放犬している事が望ましくない」と判断出来た場合には、射手役の狩猟者達に果断無く「猟犬回収(≒狩猟中断)」の号令を出す決断が求められるのである。 猟犬回収が遅れた結果、滑落や猟犬同士の喧嘩(仕留めた獲物を目の当たりにして興奮した際に特に発生し易い)により猟犬が無用な負傷を追った場合、飼主は大きな治療費の負担を負う羽目に成るし、最悪の場合猟犬の欠員が原因でその猟期自体を丸毎棒に振ってしまう結果を招き兼ねない。こうした危険性を巻狩りに参加する狩猟者達は日頃から意識し、「獲物よりも猟犬の保全」を第一とするように心掛けることが切に望まれる。
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