太陽系内の孫衛星
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/02/14 13:50 UTC 版)
惑星の潮汐力によって孫衛星の軌道が不安定になる過程は、力学的には恒星の近くを公転する惑星の周囲での衛星軌道の安定性の議論と類似している。1970年代には、水星や金星が衛星を持っていないことに関して、太陽の潮汐力の影響という観点に着目して行われた研究がある。また2000年代以降は太陽系内だけではなく、ホット・ジュピターのような恒星の近くを公転する太陽系外惑星の衛星の安定性へと一般化した研究も行われている。これらの研究では、恒星に近い位置にある惑星を公転する衛星は、内側へ移動して惑星に衝突してしまうか、あるいは軌道を安定に保つことができる外側限界よりも外に移動して失われてしまうとされた。これと同じプロセスが惑星-衛星-孫衛星からなる系でも働き、孫衛星は衛星に衝突するか衛星の重力圏から外れるかして失われてしまう可能性がある。 孫衛星の長期的な軌道安定性には、孫衛星の軌道だけではなく、孫衛星の質量、主星である衛星の質量や惑星との距離も重要となる。惑星からの潮汐力の影響を考慮した孫衛星の存在可能性の研究は、1973年に Mark J. Reid によって行われている。Reid は月の周りを周回する孫衛星を想定した計算を行い、孫衛星が長期的に安定に存在するためには、孫衛星の質量は衛星の10万分の1以下である必要があると結論付けた。そのため孫衛星は、太陽系内に存在していたとしても最大で 10 km 程度の大きさのもののみが安定であると考えられる。また、孫衛星の軌道離心率が小さく順行軌道であり、なおかつ孫衛星の質量が衛星に対して小さい場合は、衛星のヒル半径のおよそ 50% 以内が長期的に安定な範囲となる。衛星のヒル半径は、衛星の質量が大きく、惑星から離れているほど大きくなる。そのため孫衛星が安定に存在するためには、衛星自身が大きく、さらに惑星から離れた距離を公転している必要がある。さらに孫衛星が衛星に近すぎる場合、衛星の地殻内の局所的な質量分布の影響で軌道が不安定化される場合がある。そのため、衛星に近すぎず、かつヒル半径の 50% 程度以内の遠すぎない軌道を持っている必要がある。 上記のような制約により、衛星の質量が小さすぎたり、衛星の軌道が惑星に近すぎたりする場合は孫衛星は安定に存在できなくなる。そのため孫衛星が存在できる条件は非常に厳しいものになり、太陽系内の衛星のほとんどは長期的に孫衛星を持つことが出来ない。ただし数少ない例外として孫衛星が安定に存在できる条件を満たす衛星もあり、木星の衛星カリスト、土星の衛星タイタンとイアペトゥス、そして地球の衛星である月は、孫衛星が 10 km 程度と小さく衛星から程良い軌道長半径で公転している場合、安定に存在する余地があることが解析的に示されている。これらの衛星は共通して、直径が 1000 km 程度あり質量が比較的大きく、惑星から離れた位置を公転しているという特徴がある。その他の大部分の規則衛星は惑星に近すぎるため、孫衛星を安定に保持できない。例えばカリスト以外の木星のガリレオ衛星、タイタンより内側の土星の規則衛星、天王星と海王星の全ての規則衛星や大型衛星は、惑星に近すぎるため孫衛星を長期間持つことが出来ない。 ただし、孫衛星が安定に存在する余地があることと孫衛星が存在していることは別の問題であり、実際にこれらの衛星の周りには孫衛星の存在は確認されていない。孫衛星が存在するためには、安定な領域内で孫衛星を形成あるいは捕獲する、何らかのメカニズムが必要である。また仮に孫衛星が形成されたとしても、過去の衛星軌道の移動や複数の衛星間の重力的相互作用などの影響で失われてしまう可能性もある。また惑星の潮汐力以外にも孫衛星に影響及ぼしうる要因があり、例えば月の周りの軌道に関しては太陽や地球からの摂動がさらに軌道を不安定にする可能性がある。月周回軌道に投入された探査機は制御落下をしなくてもいずれ月面に衝突してしまうが、これはこの摂動による軌道の変化が原因である。
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