太陽系内での観測
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/04/19 09:05 UTC 版)
衝効果が初めて報告されたのは土星の環の明るさの変化においてであり、これは100年以上前の1887年にまで遡る。 天体の表面における衝効果が初めて確認されたのは、1955年に天文学者トム・ゲーレルスが小惑星マッサリアを観測した時である。彼はマッサリアの位相角が 0°〜20° になるまでの明るさの変化を観測した。その結果、位相角が 7°〜20° の間は明るさの変化は 1° あたり 0.03 等級だったが、位相角が 7° よりも小さい時は明るさの変化割合がそれより大きくなることが判明した。ゲーレルスらによる後の研究では、この効果は月の明るさの変化でも見られることが示されている。ゲーレルスはこの現象に対して衝効果 (opposition effect) という新しい用語を与えたが、今日では「opposition surge」という用語の方が広く使用されている。 ゲーレルスの初期の研究以降、衝効果は太陽系内の大気を持たない天体で検出されている。一定量の大気を持った天体においては、衝効果による増光は発見されていない。すべての大気を持たない天体が顕著な衝効果を示すとは限らず、反射率の高いガリレオ衛星やいくつかの小惑星、月や火星などで衝効果が検出されている。 月における衝効果の観測では、位相角が 4° から 0° にかけて明るさが40%あまり変化することが示されている。また、比較的滑らかな表面を持つ月の海の領域より、粗い表面を持つ高原地域の方が衝効果による明るさの増加が大きいことも判明している。この観測では衝効果の大きさは波長にはあまり依存しないことが分かっており、0.41 µm での増光は 1.00 µm より 3-4% 大きいのみであった。この結果は、月の表面で発生している衝効果は、干渉性後方散乱よりも影が隠されている効果の方が寄与が大きいことを示唆している。 衝効果が位相角が非常に小さくゼロに近い場合に顕著に現れるが、地上から観測する場合は特定の天体がそのような位置関係になるタイミングは極めて限られている。しかし探査機による観測の場合は、太陽を背にすることで比較的容易に低位相角からの観測が可能となり、衝効果の観測を行うことができる。例えば小惑星探査機はやぶさは、太陽を背にして低位相角からイトカワ表面の観測を行うことで、衝効果を検出している。この観測では、イトカワ表面にできたはやぶさの影の周囲が、別の場所よりも明確に明るくなっていることが分かる (出典元のリンク先参照)。レゴリスに覆われた表面で衝効果が顕著に現れることは知られていたが、イトカワの観測ではレゴリスに覆われていない岩石の表面でも衝効果が見られることが分かっている。この理由についてはまだ明らかになっていない。また、はやぶさの後継機であるはやぶさ2によるリュウグウの観測でも、衝効果が見られている。 衝効果は地球近傍小惑星の検出にも影響を及ぼす。衝効果により天体との位相角が非常に小さい時は天体の明るさは著しく大きくなる。そのため、地球から見て太陽のちょうど反対方向にある小惑星は、別の位相角にいる同程度の小惑星よりも明るく見えることになる。この影響により、地球近傍天体は半数以上が太陽とは反対方向の空のごく狭い領域で発見されている。
※この「太陽系内での観測」の解説は、「衝効果」の解説の一部です。
「太陽系内での観測」を含む「衝効果」の記事については、「衝効果」の概要を参照ください。
- 太陽系内での観測のページへのリンク