均質核生成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/13 08:38 UTC 版)
均質な溶液中での核生成は起こりにくい過程であるが、均質核生成と呼ばれる。形成された核は新しい相との境界面を提供することになる。 液温が不均質核生成温度(融点)を下回るが、均質核生成温度(純物質の凝固点)を上回っている状態のことを、過冷却という。これはアモルファス固体のような準安定状態の構造を作る時に役立つが、プロセス化学や鋳造においては望ましくない状態である。過冷却により過飽和状態が生じ、核生成の駆動力となる。これは形成された固体内の圧力が液体の圧力より小さい場合に起こり、液体と固体間での単位体積あたりの自由エネルギー G v {\displaystyle G_{v}} の変化をもたらす。この変化量は、体積が増えることによる自由エネルギー獲得と新たな表面の表面エネルギーによるエネルギー損失の差として決定される。全体としての自由エネルギー変化 Δ G {\displaystyle \Delta G} が負になったとき、核生成が起こる。 核が小さすぎると(不安定核、または幼核 "embryo")、体積増加によるエネルギーが表面エネルギーを上回ることができず、核生成は促進されない。核の大きさはその半径によって表されるが、これが臨界半径 r=r* を超えると核生成が促進されるようになる。 クラスタ形成時に単位体積あたり -Gv J(ここで Gv は負)のエネルギーが獲得されるが、新たに生成する単位面積あたり σ のエネルギーを損失するとしたとき、半径rのクラスタの形成に必要なエネルギーは次のようになる。 Δ G = − 4 3 π r 3 G v + 4 π r 2 σ {\displaystyle \Delta G=-{\frac {4}{3}}\pi r^{3}G_{v}+4\pi r^{2}\sigma } 初項は体積増加によるエネルギー獲得、第二項は新しい表面の表面張力( σ {\displaystyle \sigma } )によるエネルギー損失を示す。 このクラスタに分子を加えるにはエネルギーが必要である( d G d r > 0 {\displaystyle {\frac {dG}{dr}}>0} であるため)が、半径が臨界半径 r ∗ = − 2 σ G v {\displaystyle r^{*}=-{\frac {2\sigma }{G_{v}}}} に達すると d G d r = 0 {\displaystyle {\frac {dG}{dr}}=0} となる。 臨界半径より大きいクラスタへの分子の付加では自由エネルギーが獲得されるため、これ以降のクラスタの成長は核生成ではなく拡散によって制限されることになる。 臨界半径のクラスタの生成に必要な自由エネルギーは Δ G ∗ = 16 π σ 3 3 ( G v ) 2 {\displaystyle \Delta G^{*}={\frac {16\pi \sigma ^{3}}{3(G_{v})^{2}}}} となり、この点で Δ G {\displaystyle \Delta G} は最大、 d G / d r = 0 {\displaystyle dG/dr=0} となる。 Δ G v {\displaystyle \Delta G_{v}} を平衡温度, 融解熱 ( Δ H v {\displaystyle \Delta H_{v}} )の式で表すと、 Δ G v = Δ H v − T Δ S v {\displaystyle \Delta G_{v}=\Delta H_{v}-T\Delta S_{v}} 融点 T m {\displaystyle T_{m}} での平衡点 ( Δ G v = 0 {\displaystyle \Delta G_{v}=0} ) でこの式を評価すると、 Δ S v = Δ H v T m {\displaystyle \Delta S_{v}={\frac {\Delta H_{v}}{T_{m}}}} Δ S v {\displaystyle \Delta S_{v}} を以前の式に代入すると、 Δ G v = Δ H v − T ( Δ H v T m ) {\displaystyle \Delta G_{v}=\Delta H_{v}-T({\frac {\Delta H_{v}}{T_{m}}})} さらに、過冷度 Δ T = T m − T {\displaystyle \Delta T=T_{m}-T} であるため、 Δ G v = Δ H v T m Δ T {\displaystyle \Delta G_{v}={\frac {\Delta H_{v}}{T_{m}}}\Delta T} となる。一旦この点を越えると、クラスタの成長に伴う新たな表面の形成に十分なエネルギーが供給されるようになる。最終的に新たな熱力学的平衡に達するまで、核は成長していく。 r ∗ {\displaystyle r^{*}} ・ Δ G ∗ {\displaystyle \Delta G^{*}} を Δ T {\displaystyle \Delta T} を用いて表すと、 r ∗ = 2 σ T m Δ H s 1 Δ T {\displaystyle r^{*}={\frac {2\sigma T_{m}}{\Delta H_{s}}}{\frac {1}{\Delta T}}} Δ G ∗ = 16 π σ 3 T m 2 3 Δ H s 2 1 ( Δ T ) 2 {\displaystyle \Delta G^{*}={\frac {16\pi \sigma ^{3}T_{m}^{2}}{3\Delta H_{s}^{2}}}{\frac {1}{(\Delta T)^{2}}}} これは、過冷度が大きいほど相変態が促進され、臨界半径・エネルギーが小さくなることを意味している。
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