哺乳類の転写におけるエンハンサー、転写因子、メディエーター複合体とDNAループの形成
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/09 02:31 UTC 版)
「エンハンサー」の記事における「哺乳類の転写におけるエンハンサー、転写因子、メディエーター複合体とDNAループの形成」の解説
哺乳類における遺伝子発現は、遺伝子の転写開始部位の近傍に位置するコアプロモーターやpromoter-proximal element(プロモーター近位エレメント)など、多くのシスエレメントによって調節される。コアプロモーターは転写開始の指示に十分であるが、一般的にその基礎活性は低い。他の重要なシス調節モジュールは転写開始部位から離れたDNA領域に位置している。そのようなものとしては、サイレンサー、インスレーター、テザリングエレメント(tethering element)などがある。こうしたエレメントの中でも、エンハンサーとそこに結合する転写因子は遺伝子発現の調節に主要な役割を果たしている。エンハンサーは遺伝子のプロモーターから離れたDNA領域に位置しているが遺伝子発現には大きな影響を与え、一部の遺伝子では活発なエンハンサーの存在によって発現が最大100倍にまで上昇する。 エンハンサーは、ゲノム中の主要な遺伝子調節エレメントである。エンハンサーは細胞種特異的な遺伝子発現プログラムを制御するが、その制御はDNAの長距離のループを形成することで特定のエンハンサーを標的遺伝子のプロモーターに物理的に近接させることによって行われることが多い。エンハンサーのDNA領域とプロモーターの距離はは数十万塩基対にも及ぶが、特定の組織では特定のエンハンサーのみが、そのエンハンサーが制御するプロモーターと近接している。大脳皮質の神経細胞での研究では、エンハンサーを標的プロモーターに近接させる24,937個のループが発見された。複数のエンハンサーは、それぞれ標的遺伝子から数万から数十万ヌクレオチド離れた位置にあることが多いが、標的遺伝子のプロモーターへのループを形成し、互いに協調的に共通の標的遺伝子の発現を制御することができる。 ループはコネクタータンパク質の二量体(CTCFやYY1(英語版)の二量体など)によって安定化されており、二量体の一方はエンハンサー上の結合モチーフに、もう一方はプロモーター上の結合モチーフに固定されている。細胞機能特異的ないくつかの転写因子(ヒトの細胞内には約1,600種類の転写因子が存在する)は一般的にはエンハンサー上の特定のモチーフに結合し、こうしたエンハンサー結合転写因子の小さな組み合わせがDNAのループによってプロモーター近傍にもたらされることによって、標的遺伝子の転写レベルは制御される。メディエーター(通常約26個のタンパク質が相互作用する構造で構成される複合体)は、エンハンサーに結合した転写因子からの調節シグナルを、プロモーターに結合したRNAポリメラーゼIIに直接伝達する。 エンハンサーが活性化している場合、一般的にはDNAの双方の鎖からRNAポリメラーゼによる双方向への転写が行われ、2種類のエンハンサーRNA(英語版)(eRNA)が産生される。不活性なエンハンサーには、不活性な転写因子が結合している場合がある。転写因子のリン酸化は転写因子を活性化する場合があり、それによって転写因子が結合しているエンハンサーが活性化されることがある。活性化されたエンハンサーは、標的遺伝子のmRNAの転写を活性化する前に自身のeRNAの転写を開始する。
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