名古屋スタディ
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「ヒトパピローマウイルスワクチン」の記事における「名古屋スタディ」の解説
2015年12月、「全国子宮頸がんワクチン被害者連絡会愛知支部」からの要望で、愛知県名古屋市は市内在住の7万人の若い女性を対象に、ワクチンの副反応が考えられる症状についてのアンケート調査を行った(名古屋スタディ)。これは日本初のワクチンの安全性を確かめる大規模調査となった。 名古屋市立大学医学部公衆衛生学分野の鈴木貞夫教授が調査を行った。接種・症状の有無にかかわらず全員を調査する分析疫学手法で調査は実施され、患者会から提示された24症状(月経不順、関節痛、光過敏、簡単な計算ができない、簡単な漢字が書けない、不随意運動など)を使ってアンケートを作成し、7学年の女生徒全員に調査票を郵送し、ハガキで回答する形式で行われ、約3万人の回答が得られた。 解析によれば、年齢補正前の統計でワクチン接種群には月経量の異常、記憶障害、不随意運動、手足の脱力の4つの症状が多くみられ、ワクチン非接種群には体や関節の疼痛、集中できない、視力低下、めまい、皮膚の荒れなどが、多く見られた。また24の症状に関与する要素についても検討された。ワクチンの種類や病院受診の有無、など様々なクロス集計も実施された。 その結果、症状間に強い関連性があったのは、ワクチン接種の有無ではなく、年齢のみであった。年齢補正後、接種群が非接種群より有意に多い症状は1種類もなかった。むしろ、年齢補正後の接種群は有意に少ない症状が目立った。名古屋スタディでは、ワクチンと症状の因果関係を示すオッズ比(相対危険度)を示すことが目的とされた。オッズ比が大きければ薬害だと判断され、サリドマイドのオッズ比は100を超え、薬害エイズや結核と結核菌の関係では、理論上無限大になる(結核菌以外が原因で結核にはならない)。しかし、名古屋市の調査ではオッズ比は2を下回り、低く、薬害と判断するのは無理があった。 2015年12月、これらを元に名古屋市は「接種者と非接種者で統計的に明確な差は確認できない」との速報を発表した。12月17日に薬害オンブズパースン会議は、名古屋スタディに対して「実態調査であることの限界から、分析疫学の解析手法を適用して、接種群と非接種群の統計学的有意性の検定を行い、因果関係を推論するには適さない」という意見書を提出した。 2016年6月、名古屋市の最終報告書では、生データの公開と数値の集計にとどめ、因果関係に言及することを避けた。また最終報告では、鈴木が24症状全てで、接種者に発症の多い症状は見られなかったことを、オッズ比を含めて報告したにも関わらず、非接種者を1とした場合に、接種者はどれぐらい症状が起こっているのかを比較するオッズ比を削除した。削除の理由として名古屋市健康医療課は、被害者連絡会や薬害オンブズパースン会議からの圧力を踏まえたことを認め、「集団訴訟の被告となっている製薬会社が、名古屋市の調査速報をワクチンとの因果関係を否定する証拠として、訴訟に利用していることも知り、公正中立の立場から、市としては最終解析までは公表しないことを決めた」と説明した。
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