古音の残存
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/16 22:29 UTC 版)
濁音の鼻音化のほかにも、各地方には、かつて中央で使われた古い発音の残る地域がある。 共通語のセに対しシェ、ゼに対しジェと発音する地域が、東北地方・西日本の所々・九州のほぼ全域に分布している(東北ではシェがヒェにもなる)。江戸時代初期の京都でもこのような発音を行っていて、セ・ゼは関東地方から広まった発音とみられる。 江戸時代初期までの中央語では、ハ行はɸを使ってファ、フィ、フ、フェ、フォと発音されていたが、その後フを除いて[h]となった(ヒはç)。しかし、東北地方北部や島根県出雲などの方言では今もハ行子音に [ɸ]が現れる。さらにさかのぼって奈良時代あるいはより古い時代には、ハ行子音は[p]だったとされ、今も一部の琉球方言にはハ行子音[p]が残る。静岡県井川や八丈島にも語頭のpがみられるが、井川のpは新しい変化によって生じたものと考えられており、八丈島のpも語頭のハ行音の前に強意の接頭辞「おっ-」がついたためにpとなり、その後、接頭辞が脱落したものと考えられる。 合拗音「くわ」「ぐわ」は共通語では「か」「が」との区別がなくなっているが、これらをkwa、gwaと発音して歴史的仮名づかい通りに区別する地域が東北日本海側や九州など各地に残っている。 共通語では「じ」と「ぢ」、「ず」と「づ」の区別がないが、中世までの中央語では区別していた。現在の方言でも、山梨県奈良田・紀伊半島南部・高知県・九州地方には区別する地域がある。たとえば高知県では「富士(ふじ)」を[ɸuʒi]、「藤(ふぢ)」を[ɸu ̃di]〜[ɸu ̃dʒi]、「葛(くず)」を[kuzu]、「屑(くづ)」を[ku ̃du]〜[ku ̃dzu]と発音する。これらの清音についても、高知県ではチを[ti]、ツを[tu]と発音し、九州ではツを[tu]と発音する傾向があり、古い日本語の音を残している(詳しくは四つ仮名参照)。ただし、この発音特性に基層言語の影響を指摘する説もある。 このほか、戦前には九州全域で語頭のエをイェと発音していた。 これらの古音は、近年では衰退する傾向にある。特に、ハ行子音の[ɸ]や「じ・ぢ・ず・づ」の区別は現在(2002年時点)では最高齢の話者にしか認められず、合拗音kwa・gwaやシェ・ジェも衰退が進んでいる。
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