児童文学・動物物語
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動物文学はその性質として児童文学の分野と結びつきやすく、例えば『シートン動物記』や『ファーブル昆虫記』など、かならずしも子供向けに書かれたものでない著作もしばしば子供向けに再話され児童文学化してゆく傾向がある。おとぎ話(メルヒェン)にもしゃべる動物が登場するものが多いが、近代になって子供向けの本が量産されるようになるとすぐに動物が登場する本も作られ、例えば18世紀なかばのイギリスではジョン・ニューベリー(英語版)によって、『小さい紳士淑女のためのかわいい絵本』 (1752) など、人間の子供と動物が親しく会話するような本がいくも手がけられている。こうした中から、ドロシー・キルナー(英語版)『あるネズミの一代記』 (1783) のような作品を嚆矢として、動物が自分の生涯を自ら語ったり、あるいは主要な役割を担う長編の動物物語が現われはじめた(「動物物語」は動物が登場する物語全般をも指すが、狭義には寓話やファンタジーは除かれる)。しばしば動物愛護の精神を説くために書かれたこうした動物物語は、イギリスでは1810年代より一時下火となるが、動物が語り手となる形式はアンナ・シューエルの『黒馬物語』 (1877) の成功によって見直され、動物を語り手とする物語というパターンを定着させた。一方ラドヤード・キプリングは『ジャングル・ブック』 (1894) で、動物に育てられた少年の物語という、動物物語の別のタイプを提示している。 世紀の変わり目には、別節でも取り上げたアーネスト・シートンの『私が知っている野生動物』 (1898)によって、さらに新しいタイプの写実的かつドラマティックな動物物語が開拓された。この流れは同じカナダ人のG.D.ロバーツ(英語版)『赤ギツネ』 (1905) 、アメリカのジャック・ロンドンによる『野性の呼び声』 (1903)、『白牙』 (1906)、イギリスのヘンリー・ウィリアムソン(英語版)による『かわうそタルカ』 (1927) などに受け継がれており、アメリカとカナダでは1920年代から1940年代にかけて写実的な動物物語が優勢をしめた。こうした流れのなかで、ウィル・ジェイムズの『名馬スモーキー(英語版)』 (1926)、マージョリ・キナン・ローリングスの『子鹿物語』 (1938)、エリック・ナイトの『名犬ラッシー』 (1940) といった、人間の視点から動物への愛を語るタイプの名作も生まれている。他方イギリスではこの時期、ケネス・グレアムの『たのしい川べ』 (1908)、ビアトリクス・ポターの『ピーターラビット』シリーズ (1902 -) など、動物を人間の性格類型としつつその一種の社会的生活を描いた作品が描かれており、この傾向はヒュー・ロフティングの『ドリトル先生』シリーズ (1920 -) をはじめとして、両大戦間のイギリスにおける動物物語の大部分を特徴付けている。日本においては、こうした動物物語が円熟するのは第二次大戦後であり、『高安犬物語』(1954, 直木賞)の戸川幸夫や、「大造じいさんとガン」 (1941) などで知られる椋鳩十によって一連の動物物語が書かれていった。
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