児童文学版「山椒魚」
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「山椒魚 (小説)」の記事における「児童文学版「山椒魚」」の解説
井伏は1940年(昭和15年)、小学館の学習雑誌『セウガク/二年生』に、児童向けに書き直した別の「山椒魚」を発表している。掲載号は第15巻第10-12号で、「つゞきよみもの」として河目悌二の挿絵をつけて連載されたものである。この別稿「山椒魚」はやはり岩屋に閉じ込められた山椒魚の話だが、児童向けを意識してか山椒魚の内面や嘆きにはあまり注意を向けず、外面的な描写や説明、会話によって一直線に進行するわかりやすい物語に変えられており、このため流布版のような複雑さや深みはなくなってしまっている。またこの別稿「山椒魚」では後に問題となる「蛙との和解」のエピソードがすでになく、岩屋のなかで反目し続ける山椒魚と蛙の死を示唆する次のような文章で終わるかたちになっている。「もう この ごろ では、蛙 は かちかち の ひもの の やう に なり、山椒魚 も くちた 木 の やう に なって ゐる こと でせう」。 この別稿「山椒魚」は長い間ほとんどその存在が知られておらず、井伏自身にすら顧みられなかったものだが、後述の改稿問題が起こった後に研究者の前田貞昭によって紹介された。前田は、井伏が後述の改稿の際、本文にはほとんど手を加えず結末の削除にとどめたのは、この別稿「山椒魚」の試みによって、「山椒魚」の世界にはやはり山椒魚の内面世界の描写が必要であったことに気づいたためではないかとしている。
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