仮定と限界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/03 14:53 UTC 版)
「ミカエリス・メンテン式」の記事における「仮定と限界」の解説
導出における第一段階は、自由拡散を頼りにしている質量作用の法則を適用することである。しかし、高濃度のタンパク質が存在する生細胞の環境では、細胞質は自由に流れる液体というよりも粘性のあるゲルのように振る舞うことが多く、拡散による分子の動きが制限され、反応速度が変化する。質量作用の法則は不均質な環境では有効であるが、細胞質をフラクタルとしてモデル化する方が、その限定された移動性の動力学を表現するのに適している。 上記の2つのアプローチによって予測される結果の反応速度は類似しているが、唯一の違いは、迅速平衡近似では定数を K d {\displaystyle K_{d}} と定義するのに対し、準定常状態近似では K M {\displaystyle K_{\mathrm {M} }} を使用することである。しかしながら、それぞれのアプローチは異なる仮定に基づいている。ミカエリス・メンテンの平衡解析は、基質が生成物の形成よりもはるかに速い時間スケールで平衡に達する場合、より正確には ε d = k c a t k r ≪ 1 {\displaystyle \varepsilon _{d}={\frac {k_{\mathrm {cat} }}{k_{r}}}\ll 1} の時に妥当である。 対照的にブリッグズ・ホールデン準定常状態解析はもし ε m = [ E ] 0 [ S ] 0 + K M ≪ 1 {\displaystyle \varepsilon _{m}={\frac {\ce {[E]_{0}}}{[{\ce {S}}]_{0}+K_{\ce {M}}}}\ll 1} ならば妥当である。 したがって、酵素濃度が基質濃度または K M {\displaystyle K_{\mathrm {M} }} 、あるいはその両方よりもはるかに低い場合に成立する。 ミカエリス・メンテン解析、ブリッグズ・ホールデン解析のいずれにおいても、近似の質は ε {\displaystyle \varepsilon \,\!} が小さくなるにつれて向上する。しかし、モデル構築の際には、その前提条件を無視してミカエリス・メンテン速度論が用いられることが多い。 重要なことは、不可逆性は扱いやすい解析解を得るために必要な単純化であるが、一般的な場合では生成物の形成は実際には不可逆的ではないということである。酵素反応はより正確には次のように記述される。 E + S ⇌ k r 1 k f 1 ES ⇌ k r 2 k f 2 E + P {\displaystyle {\ce {E{}+S<=>[{\mathit {k_{f_{1}}}}][{\mathit {k_{r_{1}}}}]ES<=>[{\mathit {k_{f_{2}}}}][{\mathit {k_{r_{2}}}}]E{}+P}}} 一般的に、不可逆性の仮定は、以下のいずれかが真である状況で良い仮定である。 1. 基質の濃度が生成物の濃度よりも非常に大きい。 [ S ] ≫ [ P ] ⋅ {\displaystyle {\ce {[S]\gg [P].}}} これは、標準的なin vitroのアッセイ条件でも真であるし、in vivoの多くの生物学的反応、特に生成物が後続の反応によって継続的に除去される場合にも真である。 2. 反応で放出されるエネルギーが非常に大きい、つまり Δ G ≪ 0 {\displaystyle \Delta {G}\ll 0} この2つの条件が成立しない場合(すなわち、反応が低エネルギーであり、生成物のプールがかなり存在する場合)、ミカエリス・メンテン方程式は破綻し、酵素の生物学を理解するためには、順反応と逆反応をあらわに考慮した、より複雑なモデリングアプローチが必要となる。
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