主観的な後方参照、または感覚体験の「日付を古く書き直す」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/02 06:31 UTC 版)
「ベンジャミン・リベット」の記事における「主観的な後方参照、または感覚体験の「日付を古く書き直す」」の解説
リベットの、刺激と感覚に関する研究に基づいた、初期の理論は、後ろ向きの因果関係の考えのように見えたため、パトリシア・チャーチランドなどの一部の論者にとって奇妙に映った。我々はある感覚の始まりを、最初のニューロン反応の瞬間にまで、後から遡って捉えるということをデータが示唆しているとリベットは唱えた。リベットの刺激と感覚に関する仕事に対して人々はさまざまな解釈を示している。ジョン・エックルスはリベットの仕事を、非物理的な精神によってなされる、時間軸上の後ろ向きの過程を示唆していると捉えた。エドアルド・ビシアチ(Edoardo Bisiach)は、エックルスを偏向していると評したが、このように記した。 これは実際のところ、著者たち(リベットら)自身が読者に進んで押し付けようとしている結論である。...マッケイがリベットとの討論で示唆した(1979年, p. 219)、「主観的な、時間軸上の後ろ向きの参照は、被験者がタイミングを報告する際に陥った錯覚的な判断によるものではないか」という説明にリベットらは反論している。より重要なことに、リベットら(1979年、p. 220)は、彼ら自身のデータに基づいた、(精神と物質の)同一性理論について「重大だが、克服可能な困難」を示唆した。 リベットは後に、主観的な感覚の時間軸上の後ろ向き参照を媒介する、あるいは説明するような、神経機構は無さそうである、と結論した。リベットは誘発電位(EP)は、時間マーカーとして機能すると想定した。誘発電位は皮膚刺激の約25ミリ秒後にふさわしい脳の感覚領域に出現する鋭い、正の電位である。リベットの実験は、時間軸上でこの時間マーカーにまで遡るような、自動的な意識的経験の主観的な参照が存在するということを示した。皮膚の感覚は、皮膚刺激から約500ミリ秒が経過しないと我々の意識に上らないが、我々は主観的にはこの感覚が刺激と同時に起こったように感じる。 リベットにとっては、これらの主観的な参照は、脳の中に対応する神経基盤の無い、純粋に精神的な機能であるように見えたようである。実際に、この示唆は以下のようにより広く一般化することができる。 ニューロンのパターンから主観的な表象への変換は、ニューロンのパターンから生じた精神の中において発達するようである。... 精神的な主観的機能についての私の見方は、それは適切な脳機能の性質が現れたものだ、というものである。意識的な精神は、それを生じる脳過程が無ければ存在することが出来ない。しかし、脳活動から、この物理的なシステムに特有の「性質」として出現しておきながら、精神は、それを生み出した脳神経の中にははっきりと認められないような現象を示すことができる。
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