中世西欧の論理学
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/24 15:46 UTC 版)
詳細は「名辞論理学」を参照 「中世論理学」(「スコラ論理学」としても知られる)は一般的に、1200年代から1600年代までの中世西欧で発展したアリストテレス論理学の一形態を指す。ストア論理学は形成されて数百年の内に古代世界で支配的な論理体系となっていた。暗黒時代を経て論理学の研究が復活したとき、その主な根拠はキリスト教哲学者ボエティウスであったが、彼はアリストテレス論理学に親しんでおり、ストア派の著作には不案内であった。12世紀までの西欧で利用可能なアリストテレスの著作は『範疇論』、『命題論』、それにポルピュリオスの『イサゴーゲー』(範疇論の注釈書)のボエティウスによるラテン語訳のみであった。これらの著作は「旧論理学」(羅: Logica Vetus または Ars Vetus) として知られていた。この流れにおける重要な作品は『イサゴーゲー』註解であるペトルス・アベラルドゥス(1079年–1142年)の『イングレディエンティブス』(羅: Logica Ingredientibus) である。彼の直接的な影響は小さいが、ソールズベリのジョンといった弟子を通した影響は大きく、彼の厳密な論理的分析を神学へ適用する手法は、続く時代の神学的批判が洗練される道筋を作った。 13世紀初めまでにはアリストテレスの『オルガノン』の残りの作品(『分析論前書』、『分析論後書』、『詭弁論駁論』)が西欧で復活した。それまでの論理学書はその大部分がアリストテレスの著作の言い換えや註釈であった。13世紀中ごろから14世紀中ごろまでは論理学の顕著な発展がみられた時代の一つであり、特にそれまでのアリストテレス主義にあまり基づいていない独創的な三つの分野での発展がみられた。その三分野とは: 代示(羅:Suppositio)の理論。代示理論では述語(例えば「人間」)が個々のもの(例えば全ての人間)の領域にどう及んでいるのかといった問題を扱う。「全ての人間は動物である」という命題において、「人間」という言葉は今現在存在している全ての人間に及んでいる、つまり全ての人間を「代示」しているのか? あるいは過去・未来にわたる全ての人間をその範囲としているのか? 言葉は存在していない個々のものを代示しうるのか? この概念は現代の一階述語論理の先駆者だと主張する中世学者もいる。「『コプラティオ』(形容詞の指示可能性)や『アンプリアティオ』(指示領域の拡張)、『ディストリブティオ』といった関連する理論とともに代示理論は西欧中世論理学のもっとも独創的な業績の一つを成す。」 共義語 (羅: Syncategoremata) の理論。共義語は論理学的に必須の単語であるが、自義語 (羅: categoremata) とは違って単独で何かを意味することができず、他の言葉と伴うことで「共に意味する」ことができる。「と」、「ない」、「全ての」、「もし」などが共義語の例である。 推断 (羅: consequentia) の理論。推断は仮定的・条件的な命題、つまり二つの命題が「もし...ならば~」という形でつながった命題である。例えば「人間が走るなら神は存在する」(羅: Si homo currit, Deus est)。オッカムのウィリアムの『論理学大全』で推断の理論の完全に発達した姿がみられる。そこでオッカムは「質量的な」推断と「形式的な」推断とを区別しているが、これは大まかに言ってそれぞれ現代の論理包含と論理的示唆と同等である。同様の説明がヨハネス・ブリダヌスおよびサクソニアのアルベルトゥスによってもなされている。 この流れの最後に位置する重要な作品としてはヨハネス・ポインソト(1586年-1664年、聖トマスのヨハネスとして知られる)の『論理学』、フランシスコ・スアレス(1548年–1617年)の『形而上学的論争』、ジョバンニ・ジローラモ・サッケーリ(1667年–1733年)の『実証論理学』(羅:Logica Demonstrativa)がある。
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