三弗化窒素とは? わかりやすく解説

Weblio 辞書 > 辞書・百科事典 > デジタル大辞泉 > 三弗化窒素の意味・解説 

さんふっか‐ちっそ〔サンフツクワ‐〕【三×弗化窒素】


三フッ化窒素

(三弗化窒素 から転送)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/08/16 06:06 UTC 版)

ナビゲーションに移動 検索に移動
三フッ化窒素
識別情報
CAS登録番号 7783-54-2 
PubChem 24553
国連/北米番号 2451
RTECS番号 QX1925000
特性
化学式 NF3
モル質量 71.0019 g/mol
外観 無色の気体
密度 3.003 kg/m3 (1 atm, 15 ℃)
1.885 g/cm3 (liquid at b.p.)
融点

−207.15 °C, 66 K, -341 °F

沸点

−129.1 °C, 144 K, -200 °F

への溶解度 0.021 vol/vol (20 ℃, 1 bar)
構造
分子の形 trigonal pyramidal
双極子モーメント 0.234 D
危険性
安全データシート(外部リンク) Air Liquide MSDS
EU Index 掲載なし
NFPA 704
0
1
0
OX
引火点 不燃性
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

三フッ化窒素(さんフッかちっそ)は化学式 NF3で表される無機化合物。この窒素-フッ素化合物は無色、有毒、無臭、不燃性、助燃性の気体である。半導体化学でエッチングガスとして使われるため、使用は増加傾向にある。

用途

三フッ化窒素はシリコンウェハープラズマエッチング英語版に使われる。特に液晶ディスプレイやシリコンベースの太陽電池フィルム用のプラズマCVD処理室の洗浄に使われる。このガスが分解してできるフッ素のラジカルポリシリコン英語版窒化ケイ素二酸化ケイ素と反応して分解させる。三フッ化窒素はケイ化タングステン(タングステンシリサイド英語版、WSi2)と一緒に化学気相成長させて、タングステンを作るのにも使われる。NF3は当初、ヘキサフルオロエタン英語版六フッ化硫黄のようなパーフルオロカーボンと比べて環境に与える悪影響が少ないと考えられていた[1] 。近年フッ素ガスが、三フッ化窒素よりも環境への負荷が小さい代替品として、フラットパネルや太陽電池の量産工程用として導入されている[2]。 三フッ化窒素は取り扱いの容易さと安定性から、化学レーザーの一種であるフッ化水素レーザーに用いられる。

合成方法と反応性

二元素から成るフッ化物の中で、NF3 はフッ素と窒素からは直接合成できない珍しい例である。ほとんどの元素はフッ素ガスと反応し、時には激しく反応する。しかし、N2 と F2 とを直接反応させることはできない。

NF3 を初めて合成したのはオットー・ラフ英語版であり、ラフは1903年に始めた最初の取り組みから25年後の1928年に、フッ化アンモニウムフッ化水素の溶融混合物を電気分解するという方法を使って NF3 を得ることができた[3]。これにより、三フッ化窒素は三塩化窒素よりもはるかに反応性が低いことが判明した。今日では、アンモニアとフッ素ガスを反応させる方法を使ったり、ラフの方法を改良した方法を使ったりする[4]

NF3は気体であり、高圧ボンベに入れて輸送される。

反応

NF3は水にわずかに溶ける。水と反応することはない。NF3双極子モーメントは小さく、0.2340 D である。一方 NH3 は塩基性であり、双極子モーメントは 1.47 D と高い[5]

NF3は弱い酸化剤としてはたらく。

塩化水素と反応して塩素を発生する:

高温で金属に接触すると、テトラフルオロヒドラジン英語版を発生する。

NF3はフッ素、五フッ化アンチモンと反応してテトラフルオロアンモニウム英語版塩を発生する:

温室効果ガス

NF3温室効果ガスの一種だが、使用量が少ないため、SF6パーフルオロカーボンと比較して地球の大気に対する環境に与える影響は小さいと言われてきた[6][7]NF3地球温暖化係数(GWP)はCO2の17,200倍である[8][9][10]。NF3 の温室効果ガスとしての寿命は740年である[8]。NF3 は排出量が少ないとして、京都議定書で定められた温室効果ガスには含まれていない。GWP 16,800、寿命 550年とする報告もある[6]

1992年までの生産量は100トンに達していなかったが、2007年の生産量は4000トンに上ると見られており、使用量は増加傾向にある[6]。2010年の全世界での生産量は8000トンになると見られている[11][12]。大気中の蓄積量は2006年には4200トン、2008年には5400トンに上ると見られている。2008年時点での温室ガスとしての影響は、二酸化炭素の0.15%にすぎない[13]

安全性

人体

時間加重平均限界値(TLV-TWA)は10ppmである[14]NF3は短時間なら皮膚と接触しての危険性は無く、粘膜や眼に与える影響も小さい。肺に吸い込んだ場合には窒素酸化物並みの毒性があり、ひどい場合には血中のヘモグロビンメトヘモグロビンに変化させてメトヘモグロビン血症[15]となる。

反応性

三フッ化窒素は助燃性がある[14]

脚注

  1. ^ H. Reichardt , A. Frenzel and K. Schober (2001). “Environmentally friendly wafer production: NF3 remote microwave plasma for chamber cleaning”. Microelectronic Engineering 56: 73–76. doi:10.1016/S0167-9317(00)00505-0. 
  2. ^ J. Oshinowo, A. Riva, M Pittroff, T. Schwarze and R. Wieland (2009). “Etch performance of Ar/N2/F2 for CVD/ALD chamber clean”. Solid State Technology 52: 20–24. 
  3. ^ Otto Ruff, Joseph Fischer, Fritz Luft (1928). “Das Stickstoff-3-fluorid”. Zeitschrift für anorganische und allgemeine Chemie 172 (1): 417–425. doi:10.1002/zaac.19281720132. 
  4. ^ Philip B. Henderson, Andrew J. Woytek "Fluorine Compounds, Inorganic, Nitrogen" in Kirk‑Othmer Encyclopedia of Chemical Technology, 1994, John Wiley & Sons, NY. doi:10.1002/0471238961.1409201808051404.a01 Article Online Posting Date: December 4, 2000
  5. ^ Thomas M. Klapötke “Nitrogen–fluorine compounds” Journal of Fluorine Chemistry Volume 127, 2006, pp. 679-687. doi:10.1016/j.jfluchem.2006.03.001
  6. ^ a b c Prather, M.J.; Hsu, J. (2008). NF3, the greenhouse gas missing from Kyoto”. Geophysical Research Letters 35: L12810. doi:10.1029/2008GL034542. http://www.agu.org/journals/gl/gl0812/2008GL034542/. 
  7. ^ Tsai, W.-T. (2008). “Environmental and health risk analysis of nitrogen trifluoride (NF3), a toxic and potent greenhouse gas”. J. Hazard. Mat. 159: 257. doi:10.1016/j.jhazmat.2008.02.023. 
  8. ^ a b Climate Change 2007: The Physical Sciences Basis, Intergovernmental Panel on Climate Change, http://www.ipcc.ch/pdf/assessment-report/ar4/wg1/ar4-wg1-chapter2.pdf 2008年7月3日閲覧。 
  9. ^ Robson, J.I.; Gohar, L.K., Hurley, M.D., Shine, K.P. and Wallington, T. (2006). “Revised IR spectrum, radiative efficiency and global warming potential of nitrogen trifluoride”. Geophysical Research Letters 33: L10817. doi:10.1029/2006GL026210. http://cat.inist.fr/?aModele=afficheN&cpsidt=17893800. 
  10. ^ Richard Morgan (2008年9月1日). “Beyond Carbon: Scientists Worry About Nitrogen’s Effects”. New York Times. オリジナルの2008年9月7日時点によるアーカイブ。. http://www.webcitation.org/query?url=http%3A%2F%2Fwww.nytimes.com%2F2008%2F09%2F02%2Fscience%2F02nitr.html%3Fref%3Dscience&date=2008-09-07 2008年9月7日閲覧。 
  11. ^ M. Roosevelt (2008年7月8日). “A climate threat from flat TVs, microchips”. http://www.latimes.com/news/nationworld/nation/la-na-climate8-2008jul08,0,7460950.story 
  12. ^ Hoag, Hannah (2008年7月10日). “The Missing Greenhouse Gas”. Nature Reports Climate Change (Nature News). doi:10.1038/climate.2008.72. http://www.nature.com/climate/2008/0808/full/climate.2008.72.html 
  13. ^ MSN産経ニュース 温室効果ガスの三フッ化窒素、従来推定量の4倍以上が大気中に、2008年10月28日、2009年11月7日閲覧
  14. ^ a b NF3 三フッ化窒素
  15. ^ Malik, Yogender (2008年7月3日). “Nitrogen trifluoride - Cleaning up in electronic applications”. Gasworld. 2008年7月15日閲覧。

外部リンク



英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

三弗化窒素のお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



三弗化窒素のページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
デジタル大辞泉デジタル大辞泉
(C)Shogakukan Inc.
株式会社 小学館
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアの三フッ化窒素 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS