ログローリングの意義
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/05/27 10:06 UTC 版)
「ログローリング」の記事における「ログローリングの意義」の解説
ログローリングが成立することによって、どのような効果が得られるかに関してはいくつかの議論がある。まずいわゆる投票のパラドックスに見られるように投票結果が循環した場合、ログローリングを行うことでこの循環を解消することができると考えられている。すなわち各議員が自らの選好に忠実に投票して或る一つの議題に関して投票したときに循環が発生しても、これを別の議題と結びつけて票を取引して投票を変えることで循環が防げるわけである。このことから次のようなことが言える。つまり特定の議員もしくは議員集団が一つの議題に関して自らの望むような結果を得るために、別の議員もしくは議員集団とログローリングを日常的に成立させているために議会においては循環が発生しないわけである。またログローリングによって投票者は選好の強度を表明することができる。基本的に多数決の投票においては選好の順序を表明することはできるが、その順序付けた選択肢をどれほど望んでいるかという選好の強度に関しては表明することはできない。しかしログローリングという票取引の形で、すなわち強度の低い選好の放棄によって強度の高い選好を実現することで選好強度の表明を達成することが可能になるわけである。このことから取引集団を構成する各議員及び議員集団に着目すると、自分が強く望む強度の高い選好が実現したためにパレート最適が達成されていることが分かる。すなわち取引集団を構成する各集団の効用は制約の中で最大化されており、他の集団の効用を犠牲にしなければ或る集団の効用を高められない状態である。こうしたパレート最適の達成ゆえに、ログローリングには社会的便益をより大きくする可能性が秘められている。またこのことは、公共財の最適供給という政治の究極的目的にも大きな貢献を成す可能性を持つ。 このようにログローリングを行った複数の集団内ではパレート改善が見られる一方で、ログローリングを行わなかった者に関しては外部性が存在することとなる。取引に参加しなかった者は外部費用を支払うことになり、効用は減少する。ウィリアム・ライカーによれば、この外部性からいわゆる票取引のパラドックスが生じることになる。すなわちログローリングに参加しない場合の効用の減少が参加する際の増加分を上回る場合には、ログローリングの結果全ての議員(投票者)の効用が減少することになる。このことがログローリングの問題点として挙げられる。 またログローリングが特定の議員の利益誘導のために利用され、投票の結果が非効率となるケースがある。議員の合理性が再選されることにあるとすれば、選挙区の利益となるような立法活動を行うことになる。特にアメリカでは利益誘導のためのログローリングが問題となることがある。例えばカリフォルニア州のワイン産地から選出された議員とカンザス州の牛肉の産地から選出された二人の議員がいると仮定する。さらに議会でワイン産業と食肉産業を保護するような法案が、別個に審議されているとする。この場合、この二人の議員は取引連合を組んで両方の法案を通過させようと行動する可能性は高い。ログローリングが利益誘導に利用されたときの帰結として、政府支出の無責任な増大とそれに付随する財政赤字拡大の可能性の増大が挙げられる。この点を詳細な分析により明らかにしたのが、ジェイムズ・ブキャナンやゴードン・タロックらの公共選択論やケネス・シェプスリ及びバリー・ワインゲストを筆頭とする合理的選択理論に基づくアメリカ議会研究である。これらの分析、特に公共選択論は重要な含意を持つものであった。それはすなわちケインジアンへの批判である。ケインジアンはハーベイロードの前提に立ち、不況時に政府支出を増やし景気を拡大させ好況時に増税等で財政赤字を解消するような賢明で弾力的な政策を取れると考えた。このことから長期的に見れば財政は均衡し、財政赤字は問題にならないと主張した。これに対しログローリングの分析は、政治家は自身の支持の獲得のために政府支出を拡大させ、経済政策の運営を非効率なものとする可能性が大いにあることを示している。このことはケインジアンの政治の市場への介入の論拠となる政治家に関する考え方の誤りを示し、ケインジアンの理論的な正当性に対し重要な批判を加えた。
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