ルベーグによる積分論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/06/27 14:59 UTC 版)
「アンリ・ルベーグ」の記事における「ルベーグによる積分論」の解説
これは数学的技術よりも歴史的な位置づけに重点を置いた解説である。現代数学的な取り扱いについてはルベーグ積分を参照のこと。 積分とはくだけて言えば関数のグラフの下の領域の面積を求めることに対応する数学的な操作である。積分論のもっとも古い現れは紀元前3世紀のアルキメデスらによる求積法であるが、この時代のものは高い幾何学的対称性を持った図形にしか適用できない方法論だった。17世紀になり、アイザック・ニュートンとゴットフリート・ライプニッツにより独立に、大まかに言えば微分(関数がグラフ上の与えられた点においてどれだけ急に変化するかを計る方法)の逆操作としてとらえた積分の概念が見いだされた。これを出発として様々なクラスの積分が初めて計算可能となった。しかしながら、ユークリッド幾何学に基づいていたアルキメデスの方法と異なり、この時点でニュートンやライプニッツの微積分法には厳密な基礎付けが与えられていなかった。 19世紀になってようやくオーギュスタン=ルイ・コーシーにより関数の極限に関する厳密な理論が出来上がり、続いてベルンハルト・リーマンによって今日リーマン積分と呼ばれる定式化が達成された。この積分を定義するにあたっては、グラフの下の領域を細い長方形に分割しそれぞれの長方形の面積を足しあわせた量について、分割をどんどんと細かくしていったときの極限が考察される。しかし、関数によってはこの極限が一つの数に確定するとはかぎらず、そのような関数はリーマン可積分でないことになる。 ルベーグはこの問題を部分的に解決する新しい積分の方法を発明した。関数の定義域を細分して「長方形」の面積を足し合わせるかわりに、ルベーグは関数の値域の分割に着目して面積の計算のための基本領域を設定した。ルベーグの着想は、彼が単関数と呼んだ有限個の値しかとらない可測関数に対してまず積分を構成することだった。つぎにより複雑な関数に対する積分を、その関数よりも小さな単関数たちの積分値の上限として定義した。 ルベーグ積分は、有界区間上定められた有界関数(これらはリーマン可積分である)はルベーグ可積分になり、二つの方法による積分値は一致するという性質を持っている。他方、様々な関数がリーマン可積分でないにも関わらずルベーグ可積分になっていて、ルベーグ可積分によって初めてそれらの積分値をとることが可能になる。 ルベーグ積分論の展開の一部として、ルベーグはルベーグ測度の概念を導入した。これは区間の長さの概念をとても広いクラスの、可測集合と呼ばれる集合に拡張したものである(したがって、単関数とは有限個の値しかとらない関数であって、それぞれの値が可測集合上で定められているもの、ということになる)。測度を積分にするルベーグの技法は様々な状況に簡単に一般化でき、現代的な測度論のきっかけとなった。 ルベーグ積分には欠点もある。リーマン積分は非有界な領域上定義された関数の一部について広義リーマン積分として拡張できるが、それらのうちにはルベーグ積分では積分を定義できないものもある。実直線上の関数について言えば、(どちらかと言えばリーマン積分に基づいている)ヘンストック積分がルベーグ積分と広義リーマン積分との両方を含んだ定式化を与えている。しかし、ヘンストック積分は実直線の順序構造に依拠して定義されるため、ルベーグ積分が定義できる他の空間上の関数についてはヘンストック積分を定義することができない。
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