ユレダスの原理
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/10 05:19 UTC 版)
ユレダスは一つの地点にて観測された地震波の初期微動(P波)の振動波形だけで、地震の震央位置(震源距離、深さと震央方位から推定する)・マグニチュードを、瞬時(ほぼリアルタイム)で推定し、必要と判断される地域にS波が来る前に警報を発信するシステムである。なお初動を感知できなくとも、地震動があらかじめ定めた規準値を超過した場合には、瞬時に警報を発信する。 ユレダスでは単独の3成分地震計とそれに連動した独立した演算器(コンピューター)により、以下の項目をリアルタイム処理する。ユレダスの地震波形処理の基本的な考え方は、リアルタイム処理にあり、波形を貯め込んでモデル関数にフィッティングするなどの間歇的な処理方法はとっていない。波形をデジタルサンプリングしてから次のサンプリングまでの間に、PS識別処理、卓越周期の推定、震央方位の推定、などすべての処理は終了している。 P波の識別 地震動を検知したとき、地震動の特徴を利用して、それがP波であるか、S波であるかを識別する。 マグニチュード M {\displaystyle M} P波初動の卓越周期Tより次式でマグニチュードを求める。当初、断層破壊時間を考慮して M 6 {\displaystyle M6} 以上を対象に、初動周期を確定するのに3秒待ったが、断層破壊時間よりかなり早く卓越周期が安定することを見出した。現在は M 7 {\displaystyle M7} を超す程度までは1秒以下で十分確定できることがわかっている。 M = a ∗ l o g T + b {\displaystyle M=a*logT+b} 震央方位 地震動の3方向成分より地震波動の到来する方向を「主成分分析法」によりリアルタイムで推定する。断層の進展状況をリアルタイムに追跡することも可能である。地震波動の地表への入射角もリアルタイム監視しているので、統計的に深さを推定することもできる。 x ( t ) = ( N S ( t ) , E W ( t ) , U D ( t ) ) t {\displaystyle x(t)=(NS(t),EW(t),UD(t))^{t}} により定義される共有散行列 C = E [ x ( t ) x t ( t ) ] {\displaystyle C=E[x(t)x^{t}(t)]} すなわち地盤振動の3次元的オービットの長軸方向が震源の方位に相当する。 震源距離ほか 通常のマグニチュード推定では、マグニチュードは震源距離または震央距離と初動震幅から指定される。そこで、ユレダスでは、既に推定したマグニチュードと初動震幅から、震源距離を推定し、これと入射角より、震央距離と深さを推定している。 警報範囲の判断 「 M − Δ {\displaystyle M-\Delta \quad } 図」により推定する。 M − Δ {\displaystyle M-\Delta \quad } 図とは、既往の地震被害地点と震央近くの無被害地点のデータを集積し、これらを ( M , Δ ) {\displaystyle (M,\Delta )} 座標系に落として、被害が発生する可能性が高い領域を M {\displaystyle M} に対して明確にしたものである。 なお震源が浅い直下型地震の場合には、P波とS波の到達がほぼ同時となるため、このシステムでは大きな効果は期待しにくいが、例えば上越新幹線とき325号脱線事故の例のように、明らかに早期警報が大惨事を防止した例がある。普通、地震の深さが10km程度以上あること(中越地震では13km)を考えると、P波検知後1秒で警報が出せるコンパクトユレダスは、S波到来前に警報を出すことができる。さらに1,2秒経ってから本格的な地震動となるのが普通なので、数秒であるが効果は期待できる。2004年新潟県中越地震でも、とき325号への警報は大きく揺れ出す2秒~3秒前であったものと推測される。2秒~3秒で新幹線は100m~200m走行する。つまり被災したかも知れないところをそれだけ走行せずにすむ効果と、付近一帯の列車も止めるので、対向列車が突入する危険性を減じる効果は期待できる。
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