モウセンゴケ属とは? わかりやすく解説

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モウセンゴケ属

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/28 03:49 UTC 版)

モウセンゴケ属
ハエを捕らえたイシモチソウ
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
: ナデシコ目 Caryophyllales
: モウセンゴケ科 Droseraceae
: モウセンゴケ属 Drosera
学名
Drosera L.
和名
モウセンゴケ属(毛氈苔属)
(画)アン・プラット

モウセンゴケ属(毛氈苔属、学名Drosera)は、ウツボカズラ目モウセンゴケ科に属する食虫植物の一であり、湿原に多く生育する草本である。特徴として、葉の縁および表面に粘液滴を持つ腺毛を持ち、ハエなどの小型の昆虫を捕らえて窒素化合物やリン酸などを得ることで、土壌栄養塩類に乏しい湿原に適応している。英語名は、陽光の下で輝く粘液滴を露に見立てて Sundew(太陽の露)であり、学名Drosera は、ギリシア語で「露を帯びた」「水気のある」を意味する形容詞 δροσερός (droseros) が語源となっている[1]。また、日本語モウセンゴケは、群生地での赤い色で毛羽立った葉を緋毛氈に見立てたものである。

特徴

大部分が多年生で一部が一年生である。地下部は短い根を数本持つだけのもの、20 cm 以上の根を水平または鉛直に伸ばすもの、肥大した地下茎を持つものなどがある。

花は総状花序につき、未熟時にはその先端が渦巻き状に巻いている例が多い。葉はさじ形、倒卵形等で、その縁から表面にかけて腺毛を持ち、その先端はねばねばした粘液に覆われる。腺毛は昆虫などの小動物を粘りつけると同時に、腺毛や葉は湾曲を始め、包み込む形の傾性運動により獲物を巻き込んでいく。捕獲された小動物は、続いて分泌される各種の消化酵素により分解、吸収される。

傾性運動はモウセンゴケ科の他属であるムジナモ属ハエトリグサ属と共通するが、それに加えて腺毛に粘りつけて小動物を効率的に捕獲するのは本属の大きな特徴のひとつである。

生態

本属の植物は、他の植物との競争が少ない、湿原等の土壌の酸性度が高く、栄養塩類に乏しい環境に適応している。地上部の形態は次の三つがある。

  • 根出葉を出し、花柄だけが立ち上がるもの:日本ではモウセンゴケ・コモウセンゴケなど。ロゼットを形成するものと葉が立ち上がるもの、葉柄があるものとないものとがある。
  • 茎は立ち上がり、茎に沿って葉を出すもの:日本ではイシモチソウ・ナガバノイシモチソウ。海外には茎が他の植物に寄りかかって3 m 近く伸びる種類も知られている。
  • 長い葉柄を立ててその先端に鹿角状に切れ込んだ葉を広げる:オーストラリア産のサスマタモウセンゴケの一群。

葉のメカニズムと捕獲機序

成熟した葉に密生する腺毛の先端はややふくらみ、その細胞の隙間から粘液消化酵素を分泌する。表面はクチクラ層で覆われており、消化酵素による自己消化を防いでいる。

腺毛や葉を湾曲させ、獲物を包み込む傾性運動は、腺毛の先端の細胞群の刺激により生じた電位差の伝播により、柄の細胞群に膨圧の勾配が作られる一方、植物ホルモンであるオーキシンの成長制御作用による細胞の急速な伸張により起きる。腺毛の湾曲は10–15分、やや遅れて葉身の湾曲は15–20分で終了し、獲物を抱え込む。以後、分泌細胞群が強い酸性の分泌液と、酸性条件下で強い活性を持つペルオキシダーゼエステラーゼ、酸性フォスファターゼ、プロテアーゼ等の消化酵素を分泌し、獲物の分解が起きる。

分解されて液状となった消化物は腺毛より吸収され、窒素源やリン酸源として利用される。ダーウィンは本属(モウセンゴケ)の研究を行っている。その中で、例えば、葉の上に各種の物質を滴下して腺毛と葉の運動性を観察した結果、タンパク質アミノ酸に対して強い反応が見られることを確認している[2]

防御と競争

モウセンゴケ属の植物が花を閉じるのは、実や花を食べる蛾の一種モウセンゴケトリバ英語版 Buckleria paludum(トリバガ科)に対する防御と考えられている[3]

また、米国フロリダ州ではアメリカモウセンゴケ(Drosera capillaris Poir.)と餌が競合するクモ、徘徊して餌を捕らえるラビドサ・ラビダ英語版 Rabidosa rabida、罠を張るソシップス・フロリダヌス英語版 Sosippus floridanus は、モウセンゴケの周りで餌を奪うことが確認されている[4][5]

分布と分類

南極大陸を除く全世界的に分布する。170種以上が知られており、その半数近くがオーストラリアに分布する。

日本に分布する種

北海道東北地方の冷涼な山地から南西諸島まで、日本全国の湿原・湿地に7種ほどが自生する。広く分布するものもあるが、ごく限られた場所にのみ産するものもある。また、園芸用に栽培されている国外の種もいくつかある。

日本に自生するのは以下の通り。

この他、モウセンゴケとナガバノモウセンゴケの自然雑種とされるものにサジバモウセンゴケ D. x obovata Mert. et Koch がある。

日本国外に分布する種

日本国外に分布する種を記す。

日本国外での栽培種には以下のようなものがある。

  • Drosera binata Labill. サスマタモウセンゴケ
  • Drosera burmannii Vahl クルマバモウセンゴケ
  • Drosera pedata Pers. ヨツマタモウセンゴケ

人間とのかかわり

薬用および観賞用として利用されている。2018年ナガエモウセンゴケ特定外来生物に指定されて以降、本属の植物を海外から日本に輸入する際は植物検疫所を通過するためにナガエモウセンゴケ以外のモウセンゴケであることを示す証明書が必要となっている[8]

脚注

  1. ^ 平嶋義宏『生物学名命名法辞典』平凡社、1994年11月1日、268頁。ISBN 4582107125 
  2. ^ INSECTIVOROUS PLANTS The Complete Work of Charles Darwin Online, C. Darwin (1875)
  3. ^ 食虫植物が近くの植物から虫を盗むと判明、九大”. natgeo.nikkeibp.co.jp. ナショナルジオグラフィック. 2024年10月11日閲覧。
  4. ^ Jennings, D.E.; Krupa, J.J.; Raffel, T.R.; Rohr, J.R. (2010-05-12). “Evidence for competition between carnivorous plants and spiders”. Proceedings of the Royal Society B 277 (1696): 3001–3008. doi:10.1098/rspb.2010.0465. https://www.researchgate.net/publication/44592511. 
  5. ^ クモと食虫植物が餌を奪い合う”. natgeo.nikkeibp.co.jp. ナショナルジオグラフィック. 2024年10月11日閲覧。
  6. ^ spathulataという表記も多いが本種の場合は誤記である。
  7. ^ Hartmeyer, I. & Hartmeyer, S., (2005) Drosera glanduligera: Der Sonnentau mit "Schnapp-Tentakeln", DAS TAUBLATT (GFP) 2005/2: 34-38
  8. ^ 田辺(2020).

関連項目

文献

  • 近藤勝彦、近藤誠宏『カラー版 食虫植物図鑑』家の光協会 2006年: ISBN 4259561553
  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物 草本II 離弁花類』(1982)平凡社
  • 田辺直樹『育て方がよくわかる 世界の食虫植物図鑑』日本文芸社、2020年、51頁。 ISBN 978-4-537-21756-8 
  • Drosera of the World, 3 volumes.By Alastair Robinson et.al., Redfern Natural History Productions, 2017.

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