マラリア
マラリア(病名)は、原生動物・胞子虫類・プラスモジウム(Plasmodium)属のマラリア原虫(病原体名)が、ハマダラカ(Anopheles)で媒介されてヒトに感染する発熱性疾患である。マラリアの流行は世界の熱帯、亜熱帯のおよそ100ヶ国に及んでおり、地球上の40%の人びとがその流行の危険に曝されている。WHOの報告では、年間罹患者数は3億〜5億人、年間死亡者数は150万〜270万人と見積もられており、それぞれの数字の9割は、サブサハラのアフリカに居住する5才以下の子どもたちによるものである。マラリアは、いわゆる再興感染症(re-emerging infectious diseases)の代表的疾患であり、国際保健医療分野における最重要疾病といえる。
マラリアの撲滅計画を失敗に導いたファクターとしては、1)原虫要因:1950年代後半からの薬剤耐性熱帯熱マラリア原虫の出現と世界的拡散、2)ベクター要因:1960年代後半からの殺虫剤(DDT)に対するハマダラカの抵抗性の獲得、3)宿主要因:ヒトを取りまく社会経済学的なファクター(大規模な開発に伴う森林伐採や都市の拡張、内乱・戦争による人口移動や難民の発生、政府対策組織の崩壊など)、4)環境要因:地球の温暖化などの異常気象、津波・洪水などの自然災害、などが重要である。すなわちマラリアとは、「病原体─媒介蚊─ヒト」の3者が十分に共存する生態系で維持される疾病であり、その生態系のバランスの崩壊が、往々にしてマラリアの流行をより高くする。
マラリアの世界全体の経済的損失は、39 million DALYs(1998年)と計算されるが、その流行はおよそ世界の貧しい地域に猖獗し、いわゆる最貧国におけるマラリアによる死亡率は最富国の250倍と見積もられる。貧しい国はマラリア対策に十分な費用が供出できないどころか、マラリアがまた貧しさを増して未来の国家の発展・開発を阻害する。すなわち、マラリアは貧困の単なる結果ではなく原因でもある。マラリア流行を制圧しようと思えば、その「社会的疾病」としての特徴をよく理解しなくてはならない。 (狩野繁之)
参考資料:Malaria – Obstacles and Opportunities, Stanley C. Oaks, Jr., et al, ed. National Academy Press, Washington, D. C. 1991
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