ポスト抗生物質時代と新規薬剤の開発
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/29 14:41 UTC 版)
「抗生物質」の記事における「ポスト抗生物質時代と新規薬剤の開発」の解説
抗生物質は数多くの命を救ってきたが、耐性菌の出現により既存の抗生物質が効かない事例も上述の通り生じており、WHOは抗生物質による感染症の治療ができなくなる「ポスト抗生物質時代」の到来を危惧している。そのため、耐性菌にも有効な新たな薬剤の開発が今後も継続的に必要と予想される。海洋やヒトのマイクロバイオームなどの土壌以外の環境から抗生物質を探索する試みもなされているが、他にもゲノムマイニングが新たな抗生物質資源探索の手法として期待されている。例えば、2014年に公表された研究では、ヒトマイクロバイオームから得られたメタゲノムを探索することで、ラクトバシラス属菌が産生するラクトシリンと呼ばれる未知の抗生物質を分離することに成功している。同様に、2016年には、ヒトの鼻腔においてStaphylococcus lugdunensisの産生するルグドゥニンと呼ばれる環状ペプチドが抗生物質として作用することが明らかにされた。ルグドゥニンは黄色ブドウ球菌に代表されるグラム陽性菌の発育を抑制する作用を持ち、ルグドゥニン産生性のS. lugdunensisの存在下では黄色ブドウ球菌のラット鼻腔における増殖が抑制された。一方、抗体製剤、プロバイオティクス、ファージ療法のように、抗生物質に依存しない代替製剤の開発も進められている。 2020年現在、こうした細菌感染症に対する新規薬剤の研究は中小企業が中心的な役割を担っており、2020年に発表された総説 において分析された314の事業の内、中小企業の事業は81%を占めていた。この総説では新規抗生物質・抗生物質代替製剤の開発事業を次のように分類している。第1の分類は古典的抗生物質を含めた細菌の細胞に直接作用するものであり、187 (46%) の事業がこれに属する。33の事業はファージに関連するもので、細菌に直接作用する。次の分類は抗病原性剤を用いるもので、これも33の事業が該当する。例えば細菌の菌密度に応じて遺伝子発現を調節する仕組みであるクオラムセンシングを阻害する薬剤などがこれに含まれる。29の事業は抗体に関連したもので、毒素の中和抗体などが該当する。27の事業はワクチンであり、32の事業は他の薬剤、典型的には他の抗生物質を強化するもので、βラクタマーゼ阻害薬のような薬剤がこれに該当する。21の事業は微生物叢の操作を目指すもので、特に腸内微生物叢の調整を目的とする。プロバイオティクスがこれに該当する他、便微生物移植によるClostridium difficile感染症の治療が試験されている。他に、免疫賦活剤や既存薬の転用、ナノ粒子を用いた製剤なども開発が進められている。
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