フォーレ晩年の室内楽様式
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「ヴァイオリンソナタ第2番 (フォーレ)」の記事における「フォーレ晩年の室内楽様式」の解説
フォーレの創作期間はしばしば作曲年代によって第一期(1860年 - 1885年)、第二期(1885年 - 1906年)、第三期(1906年 - 1924年)の三期に分けられており、ヴァイオリンソナタ第2番は第三期に属する。本作は、フォーレが70歳を超えてから取り組んだ一連の室内楽作品の幕開けを告げる作品であり、このヴァイオリンソナタにつづいて、チェロソナタ第1番(作品109、1917年)、ピアノ五重奏曲第2番(作品115、1921年)、チェロソナタ第2番(作品117、1921年)、ピアノ三重奏曲(作品120、1923年)、弦楽四重奏曲(作品121、1924年)が作曲された。 第1楽章で用いられているカノン風の書法は、舟歌第11番(作品105)や同第12番(作品106bis)のコーダ、オペラ『ペネロープ』(1912年完成)第1幕の最後の部分でも用いられたもので、以降のフォーレの室内楽作品にも特徴的に取り入れられた。また、左手の宿命的なオクターヴ、長いパラグラフや小節、外面的効果のための劇的なコントラストの回避、再現部やコーダで展開部を兼ねることによって慣例的なソナタ形式を崩していることも、フォーレ晩年の室内楽様式を典型的に示す。 フランスの哲学者ウラジミール・ジャンケレヴィッチは、この作品の主調であるホ短調は、9つの前奏曲(作品103)の第9番や夜想曲第10番(作品99)、同第12番(作品107)、歌曲集『閉ざされた庭』(作品106)の「砂の上の墓碑銘」、弦楽四重奏曲などと共通する調性であり、フォーレにとって峻厳なものを示すと指摘している。しかし、『クラシック音楽史大系7 ロシアとフランス』でフォーレの項を担当したロナルド・クライトンによれば、40年以上前に作曲したヴァイオリンソナタ第1番に見られた瑞々しさはこの作品にも驚くほど残されており、先行する歌曲集『イヴの歌』や同『閉ざされた庭』、オペラ『ペネロープ』などを「辛口ワイン」に例えつつ、「われわれはフォーレの新鮮な若さをここで取り戻したといえよう」と述べている。 なお、フォーレは晩年聴覚障害に悩まされながら作曲活動を続けており、次男フィリップは、伝記の中で「ヴァイオリンソナタ第2番の冒頭部分や、チェロソナタ第1番のアレグロ楽章などを聴いていると、彼が想像した音よりもはるかに低いところで弦が鳴り、擦り切れて軋んでいるような印象を受ける。」と述べている。これについて、ネクトゥーは、熟慮の末の作風の変化を聴覚の欠陥に結びつけるのは誤った判断だと批判している。
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