テロの危険
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/20 05:42 UTC 版)
根絶されたために根絶後に予防接種を受けた人はおらず、また予防接種を受けた人でも免疫の持続期間が一般的に5 - 10年といわれているため、現在では免疫を持っている人はほとんどいない。そのため、生物兵器として使用された場合に、大きな被害を出す危険が指摘されており、感染力の強さからも短時間での感染の拡大が懸念されている。 天然痘撲滅宣言後にも、ソ連は天然痘ウイルスを生物兵器として極秘に量産、備蓄しており、ソ連崩壊後にウイルス株や生物兵器技術が流出した可能性が指摘されている。『ワシントン・ポスト』(2002年11月5日号)は、CIAが天然痘ウイルスのサンプルを隠し持っていると思われる国として、イラク(注:記事はイラク戦争前のもの)、北朝鮮、ロシア、フランスを挙げている(ただし、イラクとフランスについては可能性はとても高いというわけではないとしている)。韓国国防省は北朝鮮が天然痘ウイルスを保持していると分析し、在韓米軍兵士も2004年から天然痘のワクチン接種を受けている。アメリカはテロ対策のため天然痘ワクチンの備蓄を強化し、2001年に1200万人分だった備蓄量を、2010年までに全国民をカバーする3億人分まで増やした。 WHO専門家会議は2015年に、天然痘ウイルスの人工合成は技術的に可能になったと結論し、天然痘が再び発生するリスクがなくなることはないと報告している。2018年にはカナダのグループが、メール注文したDNA断片を用いて、天然痘ウイルスに近縁の馬痘ウイルスの人工合成に成功している。同年にアメリカ食品医薬品局(FDA)は、初の天然痘治療薬を認可した。動物実験で有効性が証明され、健康な人に服用してもらう試験で安全性が確認されたため、テロから国民を守るために認可したとFDAは説明している。 米国CDCでは生物兵器として利用される可能性が高い病原体として、天然痘ウイルスを最も危険度、優先度の高いカテゴリーAに分類している。なお、カテゴリーAには天然痘ウイルスの他、エボラウイルスなどの出血熱ウイルス、ペスト菌、炭疽菌、ボツリヌス菌、野兎病菌も指定されている。 日本において天然痘ウイルスは感染症法により特定一種病原体(国民の生命及び健康に「極めて重大な」影響を与えるおそれがある病原体)に指定されており、所持、輸入、譲渡し及び譲受けは一部の例外を除いて禁じられる。運搬には都道府県公安委員会への届出が必要である。所持者には帳簿を備える記帳義務が課せられる。 天然痘ウイルスは世界保健機関(WHO)のリスクグループ4の病原体に指定されており、実験室・研究施設で取り扱う際のバイオセーフティーレベルは最高度の4が要求される。
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