ダイグロシアとは? わかりやすく解説

ダイグロシア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/03/02 04:47 UTC 版)

ダイグロシア: diglossia)とは、ある社会において二つの言語変種もしくは言語が、互いに異なる機能を持って使い分けられている状態のこと。二言語使い分け二言語変種使い分けともいう。

語源

ギリシア語バイリンガルを意味する διγλωσσίαフランス語訳である diglossie を元にした造語である。バイリンガル(bilingualism)も似たような意味を持っていたが、社会言語学の専門用語として別々の意味を持つようになった[1]

H変種とL変種

ダイグロシアを提唱[2]したチャールズ・A・ファーガソン英語版は、ダイグロシアにおいて使い分けされる二つの言語変種をH変種 (H form)、L変種 (L form) と呼び、両者の違いを次のように特徴づけた。

H変種
その言語の正式な形式であり、正書法が定まっている。学問行政など公的な意思伝達のために用いられる。制度的な教育を通してもたらされる。
L変種
口語方言において現れる形式であり、定まった正書法がない。家庭や友人間の私的なやりとりで用いられる。母語として獲得される。

ファーガソンはH変種とL変種の使い分けの例として、ギリシャ語カサレヴサデモティキアラビア語フスハーアーンミーヤなどを挙げた[3][4]

  • 機能
  • 威信性
  • 文学遺産
  • 規範性

バイリンガリズムとダイグロシア

バイリンガリズムとダイグロシアは2つの言葉を話すという点では共通であるが、バイリンガルは個人レベルであり、ダイグロシアは社会レベルであるという点で異なる。具体的には、バイリンガルは話者の個人的二言語併用状態を指すのに対し、ダイグロシアはある特定の社会に着目し、二言語変種併用社会を指す用語である。また、同一言語において高位の変種と低位の変種があると いうこともその差である。

ジョシュア・フィッシュマンはファーガソンのダイグロシアの概念を拡張し、一つの社会で二つの言語が使い分けされる状況を論じた。 二つの言語からなるダイグロシアの社会は二言語使用者を多く抱える場合もあるが、その反対に単一言語使用者の集団が複数存在する場合もある。 後者のようなダイグロシアの典型として、支配者層の言語と被支配者層の言語が使い分けられている植民地が挙げられる[5]。例えば南米のパラグアイでは、旧宗主国の言語であるスペイン語と原住民の言葉であるグアラニー語が社会状況によって使い分けられている[6]

ダイグロシア概念の拡張

ダイグロシアの概念を拡張して、さらに3言語変種の使い分け(トリグロシア)や、多言語変種の使い分け(ポリグロシア)なども論じられる。

例えば、シンガポールでは、標準中国語英語が高級な言語(High)と考えられているのに対し、閩南語広東語など中国語の各方言シングリッシュなどの社会的地位は高くない(Low)とされている[7]。これがポリグロシア英語版の一種だと考えられている。

脚注

  1. ^ 田中 2015, p. 20.
  2. ^ Ferguson, Charles A. (1964) [1959]. “Diglossia”. In Dell Hymes (ed.). Language in Culture and Society. New York: Harper & Row. pp. pp.429-39 (初出 Ferguson, Charles A. (1959). “Diglossia”. Word 15 (2): pp.325-40. )
  3. ^ J Baugh (2006). "Discrimination and Language". In Keith Brown (ed.). Encyclopedia of Language & Linguistics Second Edition. Vol. 3. Elsevier. p. 694. ISBN 0080442994
  4. ^ ベーカー 1996, pp. 50–53.
  5. ^ ベーカー 1996, pp. 50–51.
  6. ^ 田中 2015, p. 21.
  7. ^ 東 2009, p. 19-20.

参考文献

  • コリン・ベーカー『バイリンガリズムと第二言語習得』岡秀夫、大修館書店、1996年。ISBN 4469243817 
  • 田中春美、田中幸子『よくわかる社会言語学』ミネルヴァ書房〈やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ〉、2015年。ISBN 978-4623072699 
  • 東照二『社会言語学入門―生きた言葉のおもしろさに迫る (改訂版)』研究社、2009年。ISBN 9784327401573 

関連項目

外部リンク


ダイグロシア

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/28 06:08 UTC 版)

シンハラ語」の記事における「ダイグロシア」の解説

南アジア他の言語同様にシンハラ語にもダイグロシア(二言使い分け)が見られるシンハラ語文語口語の間には多くの面で相違点がある。文字書かれるシンハラ語はすべて文語であり、正式な発言(公式なスピーチテレビラジオニュースなど)も文語行われる一方で日常会話には口語使われるシンハラ語俗語英語版)などを参照のこと)。シンハラ語文語には、サンスクリット由来の語が多く含まれている。 シンハラ語文語口語のもっとも大きな違いは、口語には動詞語形変化屈折活用)がないことである。これは中世古期の英語でも見られたことで、当時グレートブリテン島では、学校の生徒たちにとって文語の英語はほとんど外国語を習うのと同じであった

※この「ダイグロシア」の解説は、「シンハラ語」の解説の一部です。
「ダイグロシア」を含む「シンハラ語」の記事については、「シンハラ語」の概要を参照ください。

ウィキペディア小見出し辞書の「ダイグロシア」の項目はプログラムで機械的に意味や本文を生成しているため、不適切な項目が含まれていることもあります。ご了承くださいませ。 お問い合わせ


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ダイグロシア」の関連用語

ダイグロシアのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ダイグロシアのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのダイグロシア (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。
ウィキペディアウィキペディア
Text is available under GNU Free Documentation License (GFDL).
Weblio辞書に掲載されている「ウィキペディア小見出し辞書」の記事は、Wikipediaのシンハラ語 (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。

©2025 GRAS Group, Inc.RSS