スポーツカーの皮を被ったF1
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/26 01:05 UTC 版)
「ジャガー・XJR-14」の記事における「スポーツカーの皮を被ったF1」の解説
XJR-14は、その公表前からロス・ブラウンが「スポーツカーの形をしたフォーミュラマシン」と語っていたことから「スポーツカーの皮を被ったF1」、「2座席のF1」などと形容されるようになった。 車体のモノコックの形は、これまでのグループCカーのモノコックのようなドア部分が切り欠かれた形状ではなく、フォーミュラカーのようにサイドシル高いバスタブ型となっている。このため、これまでのグループCカーに比べると高い剛性を得ることができた。 SWCのレギュレーションではドアサイズについては前後寸法、上部についての記載のみでドア下部についての記載がなかったことから、この点を衝いてブラウンはドアとして可動する部分を窓のみとし、サイドシルのあるスポーツカーを設計してみせた。 フロントサスペンションにロール剛性の高いトーションバー・スプリングを採用、水平マウントされたダンパーをアンチロールバーで繋ぎノンロール化している。トーションバースプリングは1980年代後半のF1では、1988年にミナルディ・M188が採用し、翌1989年にはフェラーリ・640でも採用されている。このうちM188はトーションバースプリング、水平マウントされたダンパー、ダンパーをアンチロールバーで繋ぎノンロール化している点などでXJR-14と共通している。 フロントサスペンションをノンロール化するメリットは、マシンフロント部分の姿勢を一定の状態に保ち、アンダーフロアの気流を安定させることにある。コーナーでマシンがロールするとアンダーフロアで発生するダウンフォースのバランスが崩れ、マシンの挙動の安定性が失われタイムロスの原因となる。ノンロール化することでアンダーフロアで発生するダウンフォースの量が変化することを防ぎ、空力性能を向上させることができる。 リアサスペンションは当時のフォーミュラカーで一般的な、コイルスプリングをトランスミッション上部に縦置きにしたプッシュロッド式。トランスミッション側面にコイルスプリングを配置するレイアウトよりもラジエーターの排熱を阻害しないという利点がある。 リアセクションのレイアウトにはこれまでのグループCカーでは見られない特徴がある。 XJR-14のリアセクションはエンジン-トランスミッション-デファレンシャルギヤというレイアウトになっている。このレイアウトは1980年代後半のF1では、1988年にウィリアムズ・FW12、ベネトン・B188で、リアディフューザーをより理想的なデザインにできる方法として採用された。この方法は注目を浴び、翌1989年には流行となり多くのチームがこれに倣い当時アロウズのデザイナーだったブラウンもアロウズ・A11でこのレイアウトを採用している。このレイアウトでは同時にトランスミッションを横置きにすることが多く、ブラウンもA11では横置きのトランスミッションを試みているが、開発期間の短かったXJR-14では従来からある縦置きのトランスミッションとしている。 燃費規制のあったWSPC時代の空力では、まず空気抵抗を低減をはかり、その中でダウンフォースを獲得する方法が考えられたが、燃費規制のないSWCでは、より積極的にダウンフォースを獲得する方向へシフトした。フロントのダウンフォースは、これまでのグループCカーはフロントカウル上面と、下面にポルシェ・ハンプもしくは小規模なフロントディフューザーで獲得していたが、XJR-14ではフロントフェンダーを前方に延長し、その延長部分をつなぐかたちでフォーミュラカーのようなフロントウイングを設けてダウンフォースを得ている。 リアダウンフォースは、前述のリアレイアウトの採用によって、これまでのグループCカーよりも理想的なデザインになったディフューザーと、大型の二段式リアウイングでダウンフォースを得ている。F1の二段式リアウイングの下段部分はディフューザーに対してのフラップとしても作用しアンダーフロアの気流の吸い出しを促進する機能を有するが、ブラウンはXJR-14にこれを取り入れディフューザーの能力を最大限引き出すことに成功している。 「これは外観的にはスポーツカーだが、アウターボディを外せば2座席のF1マシンに他ならないことがわかるはずだ。デザインもシングルシーターを作るのと同じ考えで着手した」とブラウンはXJR-14のシェイクダウン時に語っている。
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