ステンガンの構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 03:22 UTC 版)
ステンガンの構造はオープンボルト式で、あらかじめ槓桿を手動で後退させておき、引き金を引くとボルトが解放されて前進し、弾薬を薬室へ送り込んで撃発を行う。クロスボルト式の安全装置は槓桿が後退した状態で操作できる。薬室が空で槓桿が前進していても、外部から強い衝撃が加わるとが槓桿が意図せずに動いてしまい給弾・撃発するという、閉鎖機構を持たないオープンボルト式銃器に共通する欠点がある。これを解消するためにMk.4コッキングハンドルが導入され、以降はボルトを前進位置で固定できるようになった。後部照準器は固定式の環状照星である。左側へ突き出したマガジンハウジングは弾倉を抜き、前面の固定ラッチを引き出しながら90度回転させて下方へ向けることができた。これは非戦闘時に排莢口と装弾口を塞ぎ異物侵入を防止することと輸送時の都合を考慮した設計だったが、耐久性に問題があったほか、戦闘時にもマガジンハウジングと装弾口のズレが起こりやすく、特に弾倉部を保持して連射するとしばしば装弾不良が発生した。 生産を開始してからも長らく弾倉部の給弾不良が多発し(これはMP38/40同様、シングル・フィード・弾倉の構造から来る問題でどうしようもなかった)、Mk.IIやIIIの初期生産ロットでは新品配布時の分解調整が必須という、粗製濫造を絵に描いたような銃であった。弾倉は32発だが、作動を円滑にするには1、2発少なく装填した方が良いとされた。ランチェスター短機関銃用の50発弾倉も流用可能で、これは孤立を余儀なくされる状況が多い空挺隊員が好んで使用している。また、動作不良を減少させるため、実包は通常の9mmパラベラム弾よりも、装薬量を増した専用実包の使用が推奨された。 小火器としての全体性能はMP40や米軍供与のトンプソン・サブマシンガンに及ばないとされているが、短機関銃として標準的な使い方である100メートル前後での射撃であればそれらに劣るものではなく、正しく保持しさえすれば実射時の集弾性は意外なほど良好であった。また下方に弾倉を備えた銃に比べて伏せ射ちのしやすさが評価されている。Mk.IIの実射評価では「噂の装弾不良はなく、問題なく全弾発射した」「反動はマイルドでマズルブラストは気にならず、M3グリースガンやトンプソンと違い、発砲時の銃口の跳ねや片方への首振りするようなことがなく、非常にコントロールしやすい」と評価されており、後にドイツ軍が模倣生産(後述)した事実や、1943年以降、兵器不足の危機が過ぎた後もステンに代わる短機関銃が大戦中に制式化されなかったことからも、当初は完璧とは言えなかったものの、その後の改修、改良を重ねられていったことからも兵器としての基本設計が優れていたと言える。 英軍将兵からは「ステンチ(悪臭)ガン」や「ウールワース・ガン」 、果ては「プラマーズ・アボーション(配管工の中絶)」や「パイプ・ガン」という蔑称で呼ばれたが、一丁あたりの製造単価はわずか7ドル60セントであり、当時としては類を見ないほど低コストで大量生産化に成功した銃だった。最終的に400万挺以上が生産され、これによってイギリス軍は歩兵用兵器の再整備を図ることができた。
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