シュペーマンの研究及び関連事項
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/08/05 04:42 UTC 版)
「誘導」の記事における「シュペーマンの研究及び関連事項」の解説
シュペーマンは、1898年頃からカエルを対象に、眼の形成過程の研究を行った。脳から生じた眼杯と、表皮から生じた水晶体が組み合わさって眼が形成されるが、その際に眼杯を焼き殺すと表皮から水晶体が形成されないことを示した。これは、眼杯が表皮細胞に何らかの働きかけをしたことを示唆する。だが、カエルの種を変えると実験結果が異なった例もあり、また焼き殺す時期によっても結果が異なるなど、ここから明確な結論を得ることが出来なかった。 また、1915年頃から、彼は胞胚期の胚に於いて、胚の各部分を切り取り、これを別の部分に移植するという交換移植の実験を始めた。これは切り出した部分の予定運命(その部分が将来何になるか)と、それを植えた先の予定運命との関わりを見るためである。その結果、胞胚期の初期には移植片は自身の予定運命にかかわらず、移植先の予定運命に従って分化した。ところが、原口背唇部(原口の出来る部位の動物極側)だけは、どこに移植した場合にもそこから陥入を行い、自分の予定運命を変えないことがわかった。彼は1918年にはTriton taeniatus 1種を用いての交換移植実験で、原口背唇部を移植することで、本来の頭部以外にもう一つの頭(二次胚)を生じた胚を得た。だがこの実験では同種の細胞を移植したため、移植片がどこでどうなったのかを明らかに出来なかった。 そこで彼の弟子のヒルデ・マンゴルトは白い T. cristatus の原口背唇部を、T. taeniatus あるいは T. alpestris に移植する実験を行ったところ、やはり本来のもの以外に新たな頭部が形成された。そして移植片は脊索を中心とする中胚葉になったものであり、神経管の大部分は宿主胚の外胚葉から形成されたものであることが確認された。それは本来は腹部の表皮に分化すべきものであり、しかも単にそのような形であるというだけではなく、正常の神経管と同じ過程で形成されたものであった。 この結果から、移植された原口背唇部はそれ自身は脊索に分化すると同時に、周囲の細胞群の分化の方向を変えたと考えられる。具体的には、たとえば表皮になるはずだった区域の細胞に働きかけて、神経管を分化させたと考えられる。ただし、形成体によるこの誘導は単に神経管を作らせるのみでなく、この際に前後の違いを生じることから、前後の軸構造をも決めるものである。シュペーマンらはこのような働きを誘導(induction)と呼んだが、これは電磁誘導からの発想であった由。また、原口背唇部のことを、周囲の細胞を秩序だったものにさせる、との意味から形成体(オーガナイザーとも 英:organizer)と呼んだ。 なお、後に誘導がこれに限定されたものではないことが判明し、原口背唇部についてはシュペーマンオーガナイザーあるいはシュペーマン・マンゴルドオーガナイザーと、その部位が神経管を誘導する作用については神経誘導と呼ばれる。 この研究の重要性は極めて高く評価された。たとえば岡田・木原は「単に神経盤のみでなく新しい個体がそこに生ずる(中略)我々が初めて人工的に新しい個体を生ぜしめるのに成功した」と記した。形成体についても「個体の発生を特徴づける造形運動や(中略)高次な過程の統一性が一片の移植片を通じて伝えられた」ものと述べている。
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