サイクリンEとがん
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2019/12/20 13:55 UTC 版)
サイクリンEの過剰発現は腫瘍形成と関係している。サイクリンEは、乳がん、結腸がん、膀胱がん、皮膚がん、肺がんなどさまざまなタイプのがんに関与している。サイクリンE1遺伝子のコピー数の増幅は悪性脳腫瘍と関係している。それに加え、サイクリンE活性の調節異常は、細胞増殖の増加による成熟異常やアポトーシス、細胞老化など細胞系譜特異的な異常を引き起こす。 サイクリンEの発現調節の異常は、いくつかの機構によって引き起こされている。多くの場合、遺伝子の増幅が過剰発現を引き起こしている。それ以外の機構としては、プロテアソームによる分解の異常が挙げられる。FBXW7(英語版)の機能喪失変異はいくつかのがん細胞に見つかる。FBXW7は、サイクリンEをユビキチン化標的とするF-boxタンパク質(英語版)である。サイクリンEの過剰発現はG1期の短縮をもたらし、細胞のサイズを小さくし、増殖における血清要求性を喪失させる。 サイクリンEの調節異常は乳がんの18-22%でみられる。サイクリンEは乳がんの予後マーカーであり、その発現の変化は腫瘍のステージやグレードの進行とともに増大する。サイクリンEの低分子量アイソフォームは疾患の大きな原因となることが示されており、乳がんの予後においても重要である。これらのアイソフォームはサイクリン依存性キナーゼ阻害因子(英語版)に対する抵抗性があり、より効率的にCDK2に結合して細胞周期の進行を促進する。これらは初期のリンパ節転移陰性乳がんの予後を決定する注目すべきマーカーであることが示されている。近年の研究では、サイクリンEの過剰発現はHER2陽性乳がん患者がトラスツズマブ耐性を獲得する機構であることが指摘されている。そのため、トラスツズマブとCDK2阻害剤の併用は妥当な治療戦略となる可能性がある。 サイクリンEの過剰発現は、消化管のさまざまな部位の癌腫への関与が示唆されている。それらの中でも、胃癌と結腸癌でより重要なようである。サイクリンEの過剰発現は胃腺腫と胃腺癌の50-60%にみつかる。結腸癌の約10%にはサイクリンE遺伝子の増幅がみられ、CDK2の遺伝子も共に増幅している場合がある。 また、サイクリンEは肺がんの有用な予後マーカーでもある。サイクリンEの過剰発現と肺がんの予後は大きく関係しており、サイクリンEの発現の増大は予後の悪さと相関していると考えられている。
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