グリフィス理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/29 05:40 UTC 版)
ナビゲーションに移動 検索に移動グリフィス理論(グリフィスりろん、Griffith's theory)またはグリフィスの条件(Griffith's criterion)[1]とは、き裂の進展は、新しいき裂面の広がりによる表面エネルギーよりも、物体中に蓄えられたひずみのエネルギーの解放増分が大きくなったときに起こるとする、破壊力学における理論。
1921年にイギリス王立航空研究所のアラン・アーノルド・グリフィス(en:Alan Arnold Griffith)により発表され[2]、その後の破壊力学の先達となった。
グリフィスの条件式
グリフィスは、最小ポテンシャルエネルギの原理により、き裂が成長して新たに形成される表面によるポテンシャルエネルギは最少となる必要があることから、き裂成長により解放されるひずみエネルギーと増加する新たなき裂表面エネルギーが平衡を保つと仮定した[3]。すなわち、解放されるひずみエネルギ量が増加する表面エネルギ量を打ち消す、あるいは上回るときにき裂が成長するとした。これをグリフィスの条件と呼ぶ[1]。
材料を横弾性係数G、ポアソン比νの線形弾性体と仮定して、長さ2aのき裂を持つ単位厚さの無限板が、き裂に垂直な方向に無限遠方から一様引張応力σを受ける場合を考える。このき裂により解放される弾性ひずみエネルギUは以下のようになる[4]。
グリフィスの条件では、き裂を含む物体は塑性変形が起こらない線形弾性体(完全脆性材料)として条件式を導いた[8]。しかし実際にはき裂を含む物体に力がかけられたとき、ほとんどの材料で、き裂先端近傍には塑性ひずみが発生する[6]。
このような塑性の影響は、グリフィスの研究後、オロワン(E.Orowan)、アーウィン(G.R.Irwin)らにより研究され、グリフィスの条件を延性材料にも適用可能な形で拡張した破壊条件をグリフィス・オロワン・アーウィンの条件と呼ぶ[1]。き裂形成に必要なエネルギを、単位面積当たりの表面エネルギγに単位面積当たりの塑性ひずみエネルギγpを加えた有効表面エネルギΓで置き換えた、次式で表される[6]。
実際の破壊では、巨視的な塑性変形後が見られないような劈開破壊を起こした場合でも破面上では大きな塑性ひずみが起きていることが多く、 γpの値はγよりもオーダーがはるかに大きいことが多い[9]。例えば低温劈開破壊した鋼の場合で、γp / γ = 103のオーダーの違いがある[9]。そのため、Γ≒γpとして条件式を次式で表す場合もある[6]。
脚注
出典
参考文献
- Griffith, A. A. (1921). “The Phenomena of Rupture and Flow in Solids”. Philosophical Transactions of the Royal Society. Series A, Containing Paper of a Mathematical or Physical Character 221 (582-593): 163-198. doi: 10.1098/rsta.1921.0006 .
- 日本機械学会 編 『機械工学辞典』(第2版)丸善、2007年1月20日。ISBN 978-4-88898-083-8。
- 小林英男 『破壊力学』(初版)共立出版、2013年5月1日。 ISBN 978-4-320-08100-0。
- 大路清嗣、中井善一 『材料強度』(第1版)コロナ社、2010年10月20日。 ISBN 978-4-339-04039-5。
グリフィス理論
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/11/22 04:21 UTC 版)
詳細は「グリフィス理論」を参照 破壊力学は第一次世界大戦中にイギリスの航空エンジニアアラン・アーノルド・グリフィス(英語版)が、脆性材料(ガラスやセラミックスなど)の破損を説明するために発展させた。グリフィスの仕事は次の2つの矛盾した事実に動機づけられたものだった: バルクのガラスを破壊するために必要な応力は約100MPaである。 原子間の結合を切るために理論上必要な応力は約10000MPaである。 これらの競合する観測結果の帳尻を合わせる理論が求められていたのである。また、グリフィス自身が行なったガラスファイバーの実験から、破壊するために必要な応力はファイバーの直径が減少するほど大きくなることが示唆された。グリフィスの登場以前は、一軸引張強度が広範囲に材料の破壊を予測するために使われていたが、これは試料に依存しない材料特性としては使えなかった。グリフィスは、実験で観測された理論上の予測値より低い破壊強度と大きさに依存した破壊強度は、バルク材料のミクロスケールのき裂によるものだと提案した。 このき裂によるという仮説を検証するため、グリフィスは彼の実験のグラス試料に人工的なき裂を導入した。この人工的なき裂は、試料表面の他のき裂に比べて非常に大きいものとした。彼の実験によると、き裂の長さ a {\displaystyle a} の2乗根と破断応力 σ f {\displaystyle \sigma _{f}} はほぼ一定で、次の式で表される: σ f a ≈ C {\displaystyle \sigma _{f}{\sqrt {a}}\approx C} 線形弾性理論の観点からのこの関係の説明には問題がある。線形弾性理論によると、線形弾性体材料の尖ったき裂の先端における応力(すなわち、引っ張り)は無限大になることが予測されるのである。この問題を避けるため、グリフィスは熱力学的アプローチを構築し、彼の観測した関係の説明した。 き裂の成長には新しい2つの表面の生成、すなわち表面エネルギーの増大が要求される。グリフィスは弾性体平板の有限のき裂の弾性の問題を解くことで、表面エネルギーを用いた定数 C {\displaystyle C} の表現を発見した。そのアプローチは端的には、 ある一軸引張負荷が加えられた理想材料に蓄えられる位置エネルギーを求める。 境界で加えられた負荷が仕事をしないように補正し、き裂を材料へ導入する。き裂は応力を緩和するので、き裂表面付近の弾性エネルギーを減少させる。一方、き裂の存在は材料全体の表面エネルギーを増加させる。 自由エネルギーの変化(表面エネルギー - 弾性エネルギー)をき裂の長さの関数として求める。この自由エネルギーが臨界き裂長さでピーク値をとるときに破壊が起こる。臨界き裂長さを越えると、き裂長さの増加すなわち破壊が起こることにより自由エネルギーが減少する。 このような手続きによって、グリフィスは次の関係を見い出した: C = 2 E γ π {\displaystyle C={\sqrt {\cfrac {2E\gamma }{\pi }}}} ここで、 E {\displaystyle E} は材料のヤング率で、 γ {\displaystyle \gamma } は材料の表面エネルギー密度である。 E = 62 G P a {\displaystyle E=62\mathrm {GPa} } 、 γ = 1 J / m 2 {\displaystyle \gamma =1\mathrm {J/m^{2}} } と仮定すると、グリフィスのガラスにおける実験により予測された破壊応力とよく一致する。
※この「グリフィス理論」の解説は、「破壊力学」の解説の一部です。
「グリフィス理論」を含む「破壊力学」の記事については、「破壊力学」の概要を参照ください。
- グリフィス理論のページへのリンク